発売開始したiPhoneには「飛び抜けて高価で買うのは愚か」

スティーブ・ジョブズが2007年に最初のiPhoneを発表した時にも、バルマーは単に批判するだけでなく、完全に叩き潰そうとした。iPhoneに興味を示す人に会う度に、嘲るような口調で「キーボードもないんですよ。メールを打つのも苦労するでしょうね」などと言って購入を思いとどまらせようとした。

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また、iPhoneは市場でも飛び抜けて高価な電話で、あんな物を買うのは愚かなことだ、とも言った。さらに、アップルに打撃を与えるべく、バルマーはマイクロソフトのデベロッパーたちを囲い込み、新たに生まれたスマートフォン・アプリのエコシステムへの参入を阻止しようとした。過去の経験から、そうすれば、アップルは資金が枯渇して苦境に陥るはずだった。

デベロッパーが仮に敵のアップルと組んだとしたら、もうマイクロソフト関連の仕事をさせないようにする。マイクロソフトが何かジョイント・ベンチャーを始めるにしても、アップルと組んだデベロッパーはそこから排除されるし、当然、マイクロソフトの重大プロジェクトにも関わることができなくなる。

もし、マイクロソフトの経営幹部の中に、アップルを利するような新たなビジネス・モデルを提案し、マイクロソフトの重要な収益源を脅かす者がいたとしたら、他の幹部たちから酷い攻撃を受けることになるだろう。現在のビジネス・モデルで大きな収益が得られているのにもかかわらず、そこに何か変更を加えようという提案をするのは完全な誤りだし、会社に対する敵対行為とみなすしかない。敵対行為があれば、もちろんそれに対して報復がなされることになるだろう。

バルマーがシャツに染みができるほどの汗をかいて、社員の前で激昂している姿は、今もネット上で動画を検索すれば簡単に見ることができるだろう。しわがれた声を張り上げ、自分は何を求めていて、何を求めていないかを必死に訴えている姿だ。公の場ですらその態度である。ルコフスキーの裁判証言でもわかる通り、多くの人の目のないところでは、さらに攻撃的になっていた。そして、マイクロソフトがグーグルやアップルに遅れを取るようになると、その攻撃性は強まっていった。

「愛されるよりも恐れられる方が安全である」

人の上に立つ者は皆、バルマーのような態度を取るべき、と強く信じている人は少なくない。そういう人たちにとってよりどころとなっているのは、16世紀イタリアの政治思想家、ニッコロ・マキャベリと、彼の著書『君主論(Il Principe)』である。

マキャベリは「善人であることは愚かである。善人であろうとする者は必ず破滅することになる」と書いている。誠実であることは賢明でなく、「嘘は、説得力を持って語られれば、統治者にとって最強の武器になり得る」ともいう。

そして、特に印象深いのが、人に優しくすべきでない理由を述べた言葉だろう。マキャベリはこう書いている。「愛と恐怖が同時に存在することは稀である。この二つのいずれかを選ばねばならないのだとしたら、愛されることよりも恐れられることを選ぶ方が安全である」