悪いリーダーとはどのような人物か。オックスフォード大学で教壇に立つデイヴィッド・ボダニスさんの著書『「公正」が最強の成功戦略である』(光文社)より、マイクロソフト元CEOのスティーブ・バルマーの例を紹介しよう――。
否定的な感情。表現を嫌う。ストレスは圧倒されました。人生の絶望。白い背景に分離カラフルな煙雲のテクスチャで狂った叫び声の男のシルエットの二重露出。
写真=iStock.com/golubovy
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196センチの体格で容赦なく部下を怒鳴りつける

身長と体重はかなり違うと思うが、スティーブ・バルマーは、喧嘩っ早いことで有名だったブルックリン・ドジャースの監督、レオ・ドローチャーと似たタイプの人物だと言える。ビル・ゲイツの引退後、あとを継いでマイクロソフトCEOになったバルマーの組織管理の姿勢は、ドローチャーとよく似ている。

デイヴィッド・ボダニス『「公正」が最強の成功戦略である』(光文社)
デイヴィッド・ボダニス『「公正」が最強の成功戦略である』(光文社)

身体が大きいとどうしても周囲に威圧感を与えるが、威圧感を持たれないよう配慮する人も少なくない。たとえば、元NFLのラインバッカーで、劇中では好人物を演じることの多い俳優のテリー・クルーズはまさにそうだ。元プロレスラーの俳優、ドウェイン・ジョンソンもやはり優しい人だ。

しかし、スティーブ・バルマーは違う。バルマーは身長196センチメートルで、肩幅もその身長にふさわしく大きい。彼は若い頃に、その身体が人を威圧すること、その威圧感を利用すれば人を操れることを発見したのだろう。部下を容赦なく怒鳴りつけ、時には相手に顔がつくほど接近して叱責することもあった。首の静脈を浮き上がらせて怒れば、その迫力に負けてほとんどの相手はおとなしく従ってしまう。

市場での競争は「ジハード(聖戦)」

長年、大学時代の友人であるビル・ゲイツの下で仕事をしながら、バルマーはその経営手法を学んだ。当時のメモを見ると、マイクロソフトの経営幹部たちは、市場での競争を「ジハード(聖戦)」と呼んでいたことがわかる。これは、競合企業をただ打ち負かすのではなく、相手の「息の根を止め」「地上から消滅させる」ことを意図して闘うという意味だ。

たとえば、新しいスタイルのウェブ・ブラウザでネットスケープがマイクロソフトの地位を脅かした時にも、経営幹部たちは、同様の製品を無料で配布するという戦略に出た。それによってネットスケープを「窒息死」させ、完全に消そうとしたのである。その件で裁判になると、改竄した映像を使って、自分たちの行動を正当化しようとした。

経済学の父とも呼ばれるアダム・スミスにこの話を聞かせてもまったく驚かないだろう。商人が自分の利益のために競争相手を叩き潰そうとするのは当然のことで、時には公共の利益を損なう行為すら厭わないものである、とスミスは考えていた。それを防ぐ規則を整備するのは政府の仕事だ。また、スミスは、企業が有害な行動に走らず、公正な競争をするよう、道徳規範を醸成する必要があるとした。

その頃のマイクロソフトは、パソコンOSの市場を事実上、独占しており、それによって莫大な利益が流れ込んでいた。バルマーがCEOに就任した2000年当時、マイクロソフトの地位は支配的で、誰にも止められない巨大戦車のようなものだった。同社への就職を希望する学生も多く、面接でどのような受け答えをすれば有利になるか、ということが度々話題になった。