今月のひとこと

実はBさん、心月院に来られた当初は、「あの会社の若い連中は私が言うことを全然聞かない」など、愚痴が多かったんです。これは、仕事ができる人に多いのですが、自分ができることは他人もできるものと思いこみ、できないとイライラしてしまう。しかし、10説明して8できる人もいれば、4の人も0.5の人もいる。しかし、0.5の人も他の道を行けば、100のアイデアをもたらすかもしれない。

私はBさんに言いました。「みんなを束ねて生産性を上げなければ会社が傾くという時に、あなたがイラついてどうするの? みんなが委縮して、余計に仕事がはかどらなくなるだけよ」と。

仏教では、108ある煩悩のなかでも、特に根源的なものを「とんじん」とし、「三毒さんどく」と呼んでいます。「貪」はあれも欲しい、これも欲しいという貪欲さのこと。「瞋」とは、自分の中にある怒りやねたみといった悪感情を外に出すことを指します。「痴」は自分のことしか考えられない視野の狭さ、自己利権に走る無知さを指します。

よりどころとなる教え、気持ちが楽に

人は誰しも「貪瞋痴」を持っていて、それらは人生を苦しくするものです。四諦のうちの第2の真理、「集諦じったい」にも該当するのですが、人間の悩みは、だいたいこの三毒から生まれている。Bさんとお会いした当初の愚痴も「瞋」や「痴」からくるものでした。

しかし、「四諦」という考え方に触れ、最近では、再生を任された会社の社員一人ひとりの現状を鑑みることがよりよい縁に繋がると感じられるようになったそうです。苦しい思い、つらい思いをすることも多いお仕事ですが、「よりどころとなる教えがあるので、以前よりも気持ちが楽になった」とも言われます。自然と愚痴が減ってきて、顔つきも穏やかになりました。もう私に「恨まれているかな」と聞くこともなくなっています。

(構成=山脇麻生)
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