カーボンニュートラルやネイチャーポジティブを実現していくためには、技術開発やビジネスモデルの構築に膨大な資金が必要となる。さらに、公正な移行を実現するための労働者支援でも、政府予算では足りず、やはり企業や金融機関の資金を活用していくことが不可欠となる。
当然、政府としても国家予算を拡充していこうとする。だが、政府が現在の歳入以上に予算を投下しようとすれば、当然、政府自身も外部から資金を調達しなければならない。すなわち国債の発行となるが、国債発行は金融市場から資金を調達することを意味しており、やはり民間資金の活用という話になる。
SDGsで掲げられているのは産業構造の革命
このように人間社会は、環境政策の分野でも、政府予算だけでなく民間資金が鍵を握る時代となった。そして、そのことは、国連でSDGsの概念が提唱された文書『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に明記されている。
実現のためには、政府や民間セクター、市民社会、国連機関などがあらゆる資源を動員する必要があると書かれている。そして、鍵は、課題を解決しながら経済成長を実現するためには、民間セクターが創造性を発揮し、産業構造を大幅に変革していくことだとも書かれている。だからこそ、『持続可能な開発のための2030アジェンダ』の副題は「我々の世界を変革する」になっているのだ。
あらためて言うが、SDGsは、発展途上国の経済発展の話ではなく、先進国も含めた人間社会全体の産業革命が宣言されている。本書の第1章と第2章でみてきたように、それしか処方箋がないからだ。そして、その変化は非常に大規模なものになっていくため、現実から目を逸らしたいという心理的な効果が生じてしまい、それが「陰謀論」となっていく。
「私たちはなにができるか」への回答
SDGsの話になると、「私たちはなにができるだろうか」という質問もよく耳にする。
残念なことに、「一人ひとりが高い意識を持ち、日常生活の中で少しずつ努力していくことが大事だ」などということはSDGsに関する公式文書のどこにも書かれていない。書かれているのは、社会変革のためには、企業のイノベーションが必要であり、それに向けて民間セクターが積極的にファイナンスすることが必要であり、政府は大きな民間ファイナンスを呼び込むために公的資金の投入が必要ということだ。
私たちが最もすべきことは、業務時間外の活動ではなく、限界値以内の絶対的デカップリングを実現できる社会経済システムを構築するための抜本的な業務変革なのだ。
では、私たち一人ひとりは、どんな業務変革を起こしていくべきなのだろうか。次の6つのうち、本稿では市民の視点をみていこうと思う。
1.企業
2.機関投資家
3.金融機関
4.メディア
5.政府・自治体
6.市民