兆候は買い物と財布に表れる
認知症の兆しとして有名なのは、「同じものを何度も買ってくるようになる」です。
たとえば、十分にあるはずの髭剃りクリームをまた買ってくる。最初は本人も家族も笑って済ますが、それが何度も続く。本人も内心「やばいな」と思っているから押し入れに隠す。家族が押し入れを開けて、髭剃りクリームが10個もあることに驚き、「これは異常だ。もしかしたら」と事態を深刻に受け止めます。
あるいは、「お財布がパンパンに膨らむこと」があります。小銭がたまっているのです。買い物をして、たとえば「134円です」と言われても、「料金が134円であること」と「自身の財布の中身」を認識して、財布の中から「百円玉を1枚と十円玉を3枚と一円玉を4枚取り出せばよい」という理解や判断がスムーズにできない。だから十分な小銭があっても、千円札での支払いが増え、結果的に小銭がたまりお財布が膨らむというわけです。
オールバックのお洒落な夫に起きた異変
Dさんは昔からお洒落な男性で、髪はオールバックに決めていたそうです。奥さまがDさんに一目惚れして結婚。それから50年が過ぎました。Dさんは高齢になったいまでも、出会った頃と同じオールバックです。
ある日、奥さまが洗面所の棚を開けたら、「以前から主人が愛用していた整髪剤が何個も入っていた」そうです。御主人に「どうしたの?」と聞くと、曖昧にごまかされた。また数日後、増えていた。「なんだかおかしいな」とは思ったけど、「うちの主人に限ってそんなことはない」と認められなかった。でも、「主人の髪が、普段よりも何倍もガッチガチに固まっていた」。
整髪料の購入を忘れて、何度も買っていただけではなく、整髪したことを忘れて、すでにガチガチに固まった頭に整髪料をつけて、さらにガッチガチにしていた。「ガッチガチに固まった髪を見て、ようやく『これはやばいな』と認められた」。
いまでこそ、奥さまが笑い話のように聞かせてくれますが、当時は本当にショックだったとおっしゃいます。
日常の中に、認知症の兆しはあるかもしれません。しかし本人も家族も、それを認めることは容易ではありません。