風邪やインフルと同じく「かかってもお互いさま」

厚労省の考えを筆者なりに深読みすると、日本も今年5月時点で「ロンドンの21年夏の状態」になるはずだっただろう。この頃のロンドンでは、繁華街では外を歩く人々からマスクが消えた一方、比較的高齢者の多いエリアでは「これ以上感染者を増やすのは良くない」とばかり、若い住民が積極的にマスク着用を続けていたように感じる。

規制が緩和されたとはいえ、コロナにかかりたくないと考えるお年寄りなどは引き続き、人が大勢集まるパブなどには出入りしなかった。反対に「かかっても重症化しないなら、飲み食べ騒ごう」と考える年代は積極的にレストランや飲み屋に足を運び、これが21年秋以降に起きた急激な経済復興の原動力となった。

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やがてこうした「コロナがなんだ、どんどん外へ出かけよう!」という層は積極的に国境をまたぐ旅行へと行動範囲を広げていった。ラグビー日本代表の欧州遠征を観戦するため、筆者がコロナ禍後初めて国外へ旅行したのもこの頃だった。そこに流れていた空気は、感染しても「お互いさま」という意識だった。インフルエンザも通勤や職場などからもらってしまうわけで、それを誰が悪いなどと問い詰める人はきっといないだろう。

脱マスク→人手不足→人件費高騰→旅行客に転嫁

こうした脱マスクによる人々の行動範囲拡大の結果、何が起きたかといえば、航空会社や空港、ホテルなどの旅行に関連する職場で人手が急速に足りなくなった。コロナ禍で雇用を減らした結果、熟練者が不足し、企業は賃金を上げて人集めにいそしんだ。

当然、高い人件費のシワ寄せは旅行客に転嫁させたわけだが、当時の状況を思い出すに「コロナ禍の最中、どこへも出かけられなかったんだから」と財布のヒモは緩みっぱなし。その結果、ホテルが倍額になろうが、レストランのメニューが高騰しようが「喜んで」その金額を払ったわけだ。

脱マスクに緩和した直後に急激なアフターコロナの経済復興が起きたのは、英国だけでなく欧州各国で見られた光景だった。ノーマスクと経済回復のタイミングがたまたま重なっただけだと思われるかもしれないが、感染症対策の象徴であるマスクを外したことが、人々のアクティブな経済活動への心理的ハードルをかなり下げたことは間違いない。