結果的に、こうした番組作りはテレビ離れを加速させた。面白いトークだと思っていたコンテンツは、視聴者から広く共感を得られず、他の動画コンテンツに敗れる結果となっている。詳しくは前回寄稿でも触れた。

ロケVTRへのこだわり

一方、テレ東は予算が少ない。スタジオのゲストは他局より見劣りする。このため、「ロケVTRに命をかける」ことになった。ロケはスタッフだけでいくこともできるから、そんなにお金はかからない。だったらロケを頑張ればいい、という発想だ。

テレビ東京が入る住友不動産六本木グランドタワー(写真=CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

その結果、テレ東には「ロケ地獄」という伝統が生まれた。新入社員たちは配属先の番組のベテランディレクターから、まずは徹底的にロケの基本を叩き込まれるのだ。

どんなものを撮影して帰ってきても、「面白くない」とやり直しを命じられる。何度も何度も追加撮影(「追撮」という)をさせられて、ようやく「何か光るもの」を現場で見つけてきてはじめて、やっと先輩たちのOKが出る。そして今度は、その光る素材の調理、つまり編集を徹底的に叩き込まれることになる。

こうして、ベテランディレクター(制作会社に所属していることが多い)からノウハウを吸収した若手の局員たちはいずれプロデューサーになる。そのときにはロケと現場の厳しさを人一倍知り抜き、面白いものを見抜くプロとなっている。

「金は出さないが、口はものすごく出す」

そんなプロデューサーたちはスタッフに「鬼のダメ出し」をする。通り一遍の内容を撮影して帰ってきても、まったく許してはくれない。容赦なく追撮とやり直しを求める。他局なら「成立している」と許容してしまいそうなものも、「もっと頑張れるはず」と突き返す。

制作会社の間ではじつはテレ東は「金は出さないが、口はものすごく出す」と恐れられ、嫌がられている。インチキや過剰演出も、「ロケの鬼」であるテレ東のプロデューサーたちには容易に見抜かれてしまう。

たとえば『家、ついて行ってイイですか?』には、演出家としても著名な初代・高橋弘樹プロデューサーの「イズム」が浸透している。びっくりするほど多くの「お蔵入り」が出ても一切気にしない。面白いものが撮れるまでどこまでも粘る。

そして『YOUは何しに日本へ?』は、「いつ成田空港に行ってもいる」ことで業界内をザワつかせた。私も、自分の番組で海外から呼んだはずのゲストに、知らない間に『YOUは何しに日本へ?』が密着していて驚いたことがある。

無駄打ちがどれだけ出ても気にせず、ロケで大量に集めた面白い情報や映像素材を、視聴者を引き込むVTRにさりげなく編集していく。テレ東にはそうした技術の伝統がある。ナレーションで説明するのではなく、ロケで収集したディテールを積み重ねることで、人となりを自然に描き、ストーリーを盛り上げていく。そこにはスタジオトークでは太刀打ちできない事実の面白さがあるのだ。

番組ディレクターが「鑑定士」並みに…

さらにテレ東には「スタッフを専門家にしてしまう」という必殺技がある。たとえば『開運!なんでも鑑定団』には、「うちの解説VTRは絶対に間違ってはならない」という鉄のオキテがあるのだという。