お金がないから、専門家の監修を頻繁に頼めない。放送作家も雇っていない。だから、担当ディレクターは半泣きになりながら、資料の山に埋もれて自力で解説VTRの原稿を書く。「お宝の詳しいストーリーでドキドキさせてくれないと、鑑定結果で驚けない」ということで、通り一遍の解説ではまったく許されない。

そのうち、番組スタッフは「お宝のことなら、そのへんの下手な鑑定士より詳しい」専門家になってしまう。

もちろんそれぞれの専門分野では鑑定士たちにかなわないまでも、掛け軸から特撮のソフビ人形まで分かる「お宝のゼネラリスト」に育っていく。そうして、少ない番組予算を「優秀なスタッフ陣」でカバーするのがテレ東流だ。

『鑑定団』だけではない。たとえば1995年から続く情報バラエティ番組『出没!アド街ック天国』。毎回ひとつの街に焦点を当てて、そのエリアの情報を伝えているが、お金がかかるためタレントが食レポをすることはほとんどない。

関東を中心に、あらゆる街を歩き倒して、「街情報の専門家」と化したスタッフたちが、自分の足で稼いできた情報の鮮度だけでVTRを制作し、勝負している。ちなみに、この番組の「料理のブツ撮り」は、業界内でも有名な厳しさで、あまりのつらさにADたちがどんどん辞めていく……という伝説があるくらいだ。

「志は高く、カメラは低く」

こうした「徹底的なロケ主義」と「専門家化したスタッフ」の他に、テレ東には「決して偉ぶらない局員たち」という3本目の柱がある。

自戒の念も込めて言うと、テレビ局員には「態度の悪い人間」が多い。どこか偉そうだったり、口のきき方が横柄だったり。制作会社の人間を見下すような者も、残念だが珍しくない。しかし、そんな中でテレ東の局員は「いい人が多い」と言われ、業界でも評判がいい。

これは「徹底的なロケ主義」の産物だと私は思う。カメラを持ってロケに行き、そこで取材先から「自然な面白さ」を引き出すためには、気に入られて、信頼されなければならない。「いい人」でなければ、面白いロケはできないのだ。

テレ東の局員なら誰もが胸に刻んでいる言葉があるという。

「志は高く、カメラは低く」

4kビデオカメラで撮影男
写真=iStock.com/okugawa
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伝説的な深夜番組『ギルガメッシュないと』の初代プロデューサー・工藤忠義の言葉である。元来は「カメラをローアングルで撮影する」というややお色気目線の意味だった。しかしいまやテレ東の社内では、「どんな取材先にもフラットに、目線を低くして臨まねばならない」という意味合いで、この言葉が語り継がれているという。

「志は高く、カメラは低く」という理念は素晴らしいものだと私は思う。そしてこうした目線をテレビ東京が持ち続ける限り、世間からの支持を失うことはないのではないかと思える。