ビートルズは、デビュー前、あちこちのレコード会社から断られたという苦い経験がある。そのため、若いアーティストたちに、自分たちのような思いをしなくてもいいシステムを提供しようと考えたのだ。ビートルズはアップルの設立趣旨をこう説明していた。

「みんな僕らのところにきて『こういうアイディアがあるんです』って言ってくれればいい。そしたら僕らは『やってごらんよ』って言ってあげる」

「地元のダチ」を経営に参加させたジョン

しかし、生き馬の目を抜くと言われるエンターテイメントビジネスの世界において、事業の経験がまったくないビートルズが、いきなりうまく行くはずがなかった。

音楽であれば、彼らにはもとからの才能があり、地を這うような努力の成果があったので、大成功を収めることができた。しかし、ビジネスの世界では、彼らはまったく何の力もなかったのである。が、彼らは音楽で成功したのと同じように、ビジネスでも成功すると思い込んでしまった。

それはある意味、仕方ない面もある。何しろ、当時の彼らはま20代半ばなのだ。20代半ばで大成功を収め、莫大なお金を手にすれば「自分たちは何でも成功できる」と勘違いするのも無理はない。

大金を元手に会社をつくったが、ビートルズの面々が直接事業をするわけにはいかない。かといって、事業を任せられる有能なビジネスマンの知り合いもいない。

彼らはどうしたのか? なんと、事業の経験もない「地元のダチ」に、いきなり大きなビジネスを任せたのである。それはまるで「不良少年がいきなり大金を手にして舞い上がっている」という構図そのものなのである。

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事業で大赤字を計上

ジョンは、幼なじみで、クオリーメンのメンバーだったピート・ショットンに、アップル・ブティックを任せた。

ピートは、クオリーメンでウォッシュボードという打楽器を担当していたが、ポール、ジョージが加入し、クオリーメンが本格的なギターバンドになると、居づらくなってやめている。が、ジョンとは、その後も交流があった。

アップル設立以前にも、ジョンは税金対策としてスーパーマーケットを買収し、その経営を、このピートに任せていた。そして、アップル設立の際には、アップルの中核事業とされていたブティック業務を任せたのだ。

ジョンはピートに依頼をするときに「200万ポンド使わなきゃいけないんだ。そうしないと税務署に持っていかれる」と言ったという。

スーパーマーケットであれば、ビジネスのフォーマットはあり、地域住民にとっては必ず必要なものなので、経営は場所さえよければどうにかなる。しかし、ブティックはそうはいかない。品ぞろえが悪ければまったく売れないし、店の内装などにも専門の知識が必要となる。