日本人はどんな病気や死因で死ぬことになるのか

このため、死に対する人々の印象も大きく変化している。

例えば、それが普通だと想定される死亡年齢以外の死が「異常な死」として認識され、「非業の死」として嘆かれる程度が従来とは比較にならないほど大きくなっている。

死亡を伴うためマスコミが大きく取り上げる悲惨な事故や事件の多くは、以前なら、あまりに多すぎて国民には知らされずに終わったものなのである。

食中毒死は、戦後しばらく、年200~300人が常態だったが、今は、10人でも大事件として大きく報道される。殺人事件の犠牲者がこの十数年で半減しているが、一つひとつの殺人事件が詳細に報道されるようになったので国民は治安がよくなったという実感をもてないほどである。

子どもの行方不明とその後の死亡の発見が一人ひとり、かなりの時間をかけて報道されるようになったのもそうした事例が極めて少なくなったからと言ってよい(図表5の1960年段階の若年層の死因構成図を参照)。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という言葉で有名な鴨長明の『方丈記』に記された無常観など、哲学や文芸を通じて先哲が築いてきた死に対する人間の考えは現代のわれわれでも参考になることが多い。しかし、死のパターンがまるで違ってきている現代には、かつてとはまるで異なった死生観が表れてきているとも言えるのではなかろうか。

最後に、こうした「高齢死社会」において日本人はどんな病気や死因で死ぬことになるのかを見ておこう。

図表4は、年齢階層ごとに死因別の死亡者数構成比をグラフに表したものである。

少なくなった幼児期の死は小児がんや種々の小児疾患が多く、やはりかつてと比べて非常に少なくなった青年期の死亡の死因としては自殺が多くなっている。

中高年期に入ると年とともに、がん、心疾患、脳血管疾患という三大成人病によって死ぬものが増えていく。

ところが、65~69歳の時期を境に、心疾患や脳血管疾患は相変わらず多いままであるのに対して、がんの割合は減少に転じる。その一方で、肺炎(誤嚥ごえん性肺炎を含む)や老衰が年齢とともに増加する。

一番死亡数が多い85~90歳以降は、これらのいずれかで死ぬ確率がほぼ同等となる。また、これらほどではないが腎不全や転倒などの不慮の事故で死ぬ場合も一定程度ある。