手配師が案内した仕事は「打ち子」
「お兄さん。こっちに来たばかりの人?」
帽子を深くかぶっていて顔はよく見えないが、身なりはしっかりしてる。30代くらいの男だ。とりあえず、話を合わせよう。
「まあ、そんな感じですね」
一拍間があってから、彼が早口で話し始めた。
「じゃあさ、お金に困ったりしてない? これから手伝ってほしいことがあるんだけど……。時間あるかな?」
よっしゃ! ようやく見つけたぞ。彼が手配師ってことで間違いなさそうだ。
「そうですね。まあ、はい。時間ありますよ」
俺の返答を聞いて、彼もパッと笑顔になった。
「本当に? よかったー。君、パチスロの経験ってある?」
パチスロ? まあ、友達と一緒に打った程度だけど……。
「はい。まあ、少しだけですけど」
「これから俺の指示通りに打ってもらいたいんだけど、大丈夫かな? 打ち子のバイトなんだけど」
ふーん。パチスロを打つだけの仕事か。
「もちろん、軍資金は全額持つから安心して。その代わり勝ってもそのぶんはいただくから」
つまり、彼の分身として、指定されたスロットを打ち続けろってことみたいだ。
手配師の紹介だから、てっきり肉体労働をさせられるもんかと思ってたけど、違ったみたい。
そもそも、この人は手配師ってわけじゃなく、ただ、人手が欲しくてバスタで探していたわけだし。
抽選だけで1500円、座ると時給1000円
「時給はいくらくらいですか?」
「開店の抽選を受けてもらうだけで、1500円。それとパチスロ台を打ってもらうのが時給千円。これでどうかな?」
高いのか安いのか相場がさっぱりわからない。まあ、特別疲れるわけじゃないだろうし、別にいいか。
「はい。その条件で大丈夫ですよ」
「ほんとに? ありがとー。今日は歌舞伎町にあるマルハンに行くから、9時20分ごろには店の近くにいてね」
「深夜バスに乗る人ってお金ないことが多い」
つーか、そもそも、なぜバスタでパチスロの打ち子バイトを探してたんだろう。聞いてみよ。
「え? まあ、言いづらいけど、さっき欠員が出たんだよね。そういうときはここに来て時間がありそうな人を探すんだよ」
ふーん。それにしたって効率が悪いと思うのだが。バスタにいる奴が全員パチスロ打てるわけじゃなかろうに。
「まあ、そういうときは、抽選だけお願いしたりとかね。ほら、深夜バスに乗る人ってお金ないことが多いからさ」
しれっと失礼なことを言うやつだ。
彼曰く、少し前までツイッターを使って欠員の補充をしていたそうだが、台の情報を狙った同業者から連絡が来ることもあるようで、俺みたくズブの素人の方が使い勝手がいいのだそうな。
別れ際にラインの連絡先を交換し、彼はどこかに行ってしまった。俺以外にも欠員を補充しに行ったのだろうか。
ひとまず仕事が見つかってよかった。集合時間に遅れないようにしなくちゃ。