東北料理店で麻婆豆腐を注文するのはNG

次に料理を注文するときのコツである。

1.店舗や厨師の文化圏から外れた料理は注文しない
2.店舗や厨師のヤル気がない時間・状況では入店しない

中華料理を考えるうえで「文化圏」はなによりも重要である。たとえば、東北料理の店で麻婆豆腐(=四川料理)や酢豚(=広東料理)、四川料理の店で小籠包(=上海など江南の料理)……などは禁じ手だ。もちろん、自分が食べたければ別に頼んでもいいのだが、本場の味を食べることが目的なら、こういう注文はオススメしない。

筆者撮影
新疆の回族(漢語を話しイスラム教を信仰する少数民族。ウイグル族とは異なる)の料理。都内ではこんなガチ中華も食べられるのだ。

理由は簡単だ。中国は、その面積がヨーロッパ全土にほぼ匹敵する広大な世界だからである。ゆえに「東北料理の店で麻婆豆腐」や「四川料理の店で小籠包」は、地理的な感覚から表現すれば、ウクライナ料理店でパエリア(スペイン料理)を作ってもらうとか、フランス料理店でドネルケバブ(トルコ料理)を作ってもらうとかに近い。

もちろんメニューに書いてある以上、作ってはくれる。だが、「ウクライナ料理店のパエリア」に真の本物の味を期待するのは無茶というものだろう。作る人もテンションが上がらないに違いない。

注文の際は、店員に厨師がどこの地方の人か尋ね、そのうえで地元のおすすめ料理を尋ねていくと、あまり外れないものを食べられる。店員とちゃんとコミュニケーションを取って仲良くするのが、おいしい料理にありつくコツだ。

名店でも時間を間違えるとまずい料理が出てくることも

上記とも関連するが、訪問する時間や状況にも注意が必要である。

筆者撮影
大阪市西成区、飛田新地に向かう商店街のなかにある福清料理店の海鮮はるさめ。見た目は無骨だが、出汁がきいていて大変美味しい。福清料理は日本ではマイナーだが、西成区の中国人は福建省北部の福清市出身者が多いのだ。

日本人の客商売の場合、たとえ早朝だろうが深夜だろうが、店が繁盛していようが閑古鳥が鳴いていようが、店舗が営業している限りは顧客に対して常に同水準のサービスの提供を求める価値観が根強い。だが、中国人は必ずしもそうではない。

たとえ名店とされるガチ中華店でも、厨師が休憩している午前10時半や午後4~5時に行くとか、台風が直撃してお客が来ない日に行くとかすると、ヤル気がまったく感じられない料理が出てくることがある。さらにひどい場合、店員のおばちゃんが「厨師がいないので」と、すごく適当に作った食べものを出してくる場合すらあり得る(それなら店を閉めればいいのにと思うが、営業を続けているのが謎である)。

いっぽう、営業終了間際の場合、厨師はそれまでの仕事でエンジンがかかっているので美味しい料理を作ってくれるが、ご飯は冷や飯が出てきたりする。厨師と店員がベストのコンディションで働いてくれる時間帯や状況をこちらで見極めて訪問するのが、ガチ中華店を攻略するコツだ(つまり、普通の日の昼食どきや夕食どきに行けということである)。

他にも、マスコミに取り上げられて日本人客の比率が上がったり、儲かってチェーン展開をおこなったり、経営者や厨師が交代したりすると、かつては名店だったはずの店の味が一気に落ちることがある。注意が必要だ。