「水もビールもまずいけど料理はうまい」ことも

いっぽう、ダメな店を判断する基準が、日本人の店舗を対象にした場合と異なることも指摘しておきたい。

日本人の店舗の場合、良い店もダメな店も、その要素が首尾一貫している。たとえばダメな店であれば、立地が悪くて内装や食器がダサく、しかも客の人数が少ないのにオーダーがまともに回っておらず、謎の薄笑いを浮かべた店長は仕事ができず、もちろん水も酒も料理もすべてがまずい──。と、たいていは店の一切がダメである。そのことに論理的な整合性すら感じられる。

なかには「パッと見は汚いのにうまい店」くらいのギャップがある場合もあるが、それでも実はトイレが非常にきれいでオーダーも迅速に通る、水が美味しいなど、やはりその店なりの首尾一貫性がある。

いっぽう、ガチ中華店に首尾一貫性はない。全体的に汚くて店舗の内装センスも壊滅的で、しかも水も生ビールもまずいのに、肝心の料理だけはすごく美味しい……、みたいな信じられない事例があり得るのだ。

首尾一貫性がない良店の一例。地下1階のボロボロの居酒屋を居抜き、清潔感ゼロの店内、100均の皿……と、日本人感覚では「地雷」感しかないが、広州の下町の食堂メニューをかなり高い再現度で提供していた巣鴨のガチ中華店。残念ながら現在は閉店。
筆者撮影
首尾一貫性がない良店の一例。地下1階のボロボロの居酒屋を居抜き、清潔感ゼロの店内、100均の皿……と、日本人感覚では「地雷」感しかないが、広州の下町の食堂メニューをかなり高い再現度で提供していた巣鴨のガチ中華店。残念ながら現在は閉店。

もっとも、こうした首尾一貫性の欠如は、ベトナムやインドネシアなど他の「異国メシ」食堂についても似たことがいえる。むしろ、ものごとが首尾一貫している日本の文化のほうが、異国の視点から見ると特殊なのかもしれない。

ガチ中華は心で食べるもの

最後に、ガチ中華を最も美味しく食べる「鉄板」の方法を紹介しておこう。それは、これから行く店と同じ地方の出身の、酒飲みのおじさん中国人(元中国人)といっしょに行くことだ。

自分の経験から語るなら、上海料理店に周来友さん(浙江省紹興市出身)と行く、四川料理店に石平さん(四川省成都市出身)と行く……などの組み合わせが黄金パターンである。

中国野菜「米莧」(通称「みし」)のにんにくと塩炒め。上海では庶民的な料理だが、さて、現地に住んだことがない日本人だけで来店してチョイスできますか……?
筆者撮影
中国野菜「米莧」(通称「みし」)のにんにくと塩炒め。上海では庶民的な料理だが、さて、現地に住んだことがない日本人だけで来店してチョイスできますか……?

これらのおじさんたちは、もはや「店の客」という受動的な立場ではなく、むしろ場を支配する存在だ。なので、注文をする際も自分が何を食べたいかなどは考えることなく、おじさんの選択にすべてをゆだねたほうがいい。

すると、100点満点評価でなぜか120点くらいのものが食べられるうえ、店員から「わかっている人たち」としてオマケの料理までご馳走してもらえたりする。中華料理はこういうハートフルな環境で食べるのがいちばん美味しい。

さておき、本記事の主張を一言でまとめる。ガチ中華を本気で美味しく食べるコツは、中国文化圏を理解すること、日本の常識で判断しないこと、楽しい相手と食べることの三点である。まずは飲み物のチョイスから、ぜひ実践してみてほしい。

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