「顧客愛」を企業文化に昇華させた

この驚異的な粘りと回復は、なぜ実現したのだろうか。スティーブの説明によると、「フレッド、人は給料のために働きます。良い上司のためにはもっと働きます。そして意義あるパーパスのためには懸命になって働くんです」。彼のチームは長い間、自分たちのパーパスが何なのかを考えに考え、その答えを同社のミッション・ステートメントに組み入れた。

お客様が当社を訪ねてくるのは、生活が混乱しているときです。事故に遭うというのは、悲惨な試練です。そして、誠実で、効率的な修理工場を見つけ出さなければならないというプレッシャーにさらされます。保険でどこまでカバーしてもらえるのか、自己負担はどの程度かといったことが心配になります。仕事の予定もガタガタになり、自分の車が修理工場に入っている間は代替車を探すという煩わしさにも直面します。生活が大混乱に陥るのです。そこで、私たちは当社のパーパスを「お客様一人ひとりが元の生活に戻るためのお手伝い」と決めました。「お客様にご自分の生活のリズムを取り戻してもらうこと」だと考えたのです。

写真=iStock.com/Daisy-Daisy
※写真はイメージです

スティーブと彼のリーダーシップチームは、従業員を刺激して仕事のリズムを取り戻しながら、各店舗の取扱高を大幅に引き上げる方法を探した。

キャリバーは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が収束するまで、初ファーストレスポンダー期対応者と前線の医療従事者全員の免責金額(自己負担額)を負担する(上限500ドル)と発表した。

これは、衝突による修理を必要とする警察官、消防士、救急車の運転手、医師、看護師全員にとって多額の救済になる。感謝の気持ちを伝えるとともに、チームを鼓舞し、余剰設備を活用する何と素晴らしい方法だろう!

時価総額は買収当時の52倍に膨らんだ

不況のときにチームを雇用し続けて給料を支払い、顧客に喜びを与える努力を続けると、顧客も従業員も幸せになれる。これは明らかだ。では、投資家はどうだろうか。

スティーブをキャリバーのCEOとして採用したプライベート・エクイティ企業は、同社の買収に1億6500万ドルを支払った。10年後の今日、スティーブの試算によると、キャリバーの時価総額はおよそ100億ドルに近づいており、投資金額の約52倍にもなる。10年間の利益率で計算すると年率50%に近い。何と素晴らしい成果だろう!

スティーブは「いつも正しいことをする」、とりわけ「いつも人々に正しく接する」という考えに基づいて、キャリバーの文化を築き上げた。「自社の社員が社内でどう感じているかどうかが、外でお客様をどう扱うかに反映されるのです」と、スティーブは言う。

キャリバーではリーダー全員が、チームメンバー一人ひとりが顧客(とチームメイト)に正しく接するとはどういう感じかを経験できる研修に参加する。なかでも上級リーダー育成プログラムのタイトルの一つが、私には非常に魅力的に思えた。それは「目的意識をもって率いる」だ。