香港は、隣接する中国広東省とマカオを一体化して発展させることを目指す「大湾区構想」に不可欠とされている。2018年には広東省と香港を結ぶ高速鉄道が開業し、さらに広東省と香港、マカオを結ぶ全長約55キロの「港珠澳大橋」も開通して、中国本土との一体化が進む。ただ一帯一路構想は、インフラ支援を通じて途上国を借金漬けにする「債務のわな」に陥らせるとの批判も根強い。

政治的にも経済的にも香港への影響力を強める中国政府が、株式でも影響力を保持しているという分析結果は何を意味するのか。

「私は、中国脅威論を言うつもりはありません」。

水野氏はそう前置きしつつ、こう分析する。

「(巨大経済圏構想の)一帯一路で、中国は発展途上国に対しては債務で影響力を高めています。一方で先進国には株保有で影響力を行使する。香港ではインフラ関連への投資が突出しており、首根っこをつかみたい意図がうかがえます」

「株式の力」を甘く見てはいけない

それでは実際に、間接的な株式の保有で影響力を行使している事例はあるのだろうか。

わかりやすい例が、日産自動車とフランス自動車メーカーのルノー、フランス政府との関係だ。筆者は毎日新聞東京本社経済部で2019~21年、金融や自動車担当として日産とルノーのアライアンス(提携)をめぐる取材をし、株式の力を間近で感じた。中国の話からはやや離れるが、間接的な株式保有の構図が理解しやすいため、少し記しておきたい。

筆者が金融担当をしていた2019年度、日産とルノーの関係はギクシャクしていた。1999年以降、日産を率いていたカルロス・ゴーン前会長が金融商品取引法違反容疑などで逮捕・起訴(2019年末にレバノンに逃亡)。ゴーン被告の退任後は、日産とルノーは、資本関係や人事の考え方の違いが表面化し日産の経営は揺れ動いた。その都度、筆者もメガバンク幹部などに夜討ち朝駆けを繰り返していた。

写真=iStock.com/franckreporter
※写真はイメージです

フランス政府が日産に影響力を行使する構図

日産の株式はルノーが43%を保有する。そして、ルノーの株式はフランス政府が15%を持つ。いわばフランス政府はルノーを通じて間接的に日産に影響力を行使できる構図だ。自動車産業はメーカーを頂点に多くの下請け企業が連なり、裾野が広い。

多くの雇用を生むため、国益とも密接に関わる。このため雇用を重視するフランス政府は、ルノーを通じて日産に経営統合を迫ったり、拠点をフランス国内に置くように求めたりするなど間接的に影響力を行使してきた。

そもそも日産がルノーの出資を受け入れた経緯は、日産の経営危機だった。だが日産の年間販売台数はルノーを上回り、技術力でもルノーをしのぐと言われている。それでも株主は企業のオーナーにあたり、所有比率に応じて配当や議決権など権利が与えられている。

日産がルノー株を買い増し、ルノーの影響力を弱めることは可能だが、2社間の協定で、独自の判断での買い増しは、日産の経営に対してルノーの不当な干渉があった場合とされている。