企業規模が巨大であっても、高年収であるとは限らない
図表1には、高度成長期の日本経済を支えた日本を代表する企業が含まれている。トヨタ自動車は、このカテゴリーに含まれる。これらの企業では、従業員平均年収が1000万円未満だ。これらの企業では、従業員一人あたりの売上高(e)が、さほど大きくない。また、売上高に対する粗利益の比率(f)もさほど高くない。多くは20%台、あるいはそれ以下だ。
三菱重工業もトヨタ自動車も、20%未満だ。キーエンスの場合に、この比率が80%を超えているのに比べると、大きく違う。従来タイプの製造業である限り、このようなことになるのは、必然なのであろう。
卸売業や不動産業の場合とは異なり、製造業の場合、企業規模が巨大であることは、高年収に寄与しない。例えば、トヨタ自動車の売上高は三菱商事よりずっと大きいが、従業員年収では遥かに及ばない。製造業の企業は、画期的な新技術やビジネスモデルを開発しない限り、従業員一人あたりの年収を1000万円以上にするのは難しいだろう。
重要なのは企業規模ではなく、新しいビジネスモデルや技術
規模が巨大な企業は、それほど多数存在できるわけではない。各業種ごとに、日本全体で数社しか存在し得ないだろう。だから、企業サイズの巨大化によって、日本の平均給与を引き上げることはできない。
それに対して、新しいビジネスモデルや新しい技術は、いくらでも開発が可能だ。それが達成できれば、巨大さは必要でない。だから、日本の給与水準を引き上げるには、新しいビジネスモデルや新しい技術を開発し、それによって生産性を引き上げることが必要だ。
人々が巨大さを求めるのは、安定性を求めるからであろう。しかし、その期待が裏切られることは、1990年代末の金融危機の際にはっきりしたはずである。ところが、日本人はそれから20年以上経っても、まだ巨大さに対する信仰を捨てていない。