「すべてを自社で内製化する」が日本企業の敗因
ASMLとニコン、キヤノンの違いは何だったのか? それは、中核部品を外注するか、内製するかだ。ASMLは中核部品を外注した。投影レンズと照明系はカールツァイスに、制御ステージはフィリップスに外注した。
自社で担当しているのは、ソフトウエアだけだ。製造機械なのに、なぜソフトウエアが必要なのか? 半導体露光装置は「史上最も精密な装置」と呼ばれるほど複雑な機械であり、安定したレンズ収差と高精度のレンズ制御が重要だ。装置として完成させるには、高度にシステム化されたソフトウエアが不可欠なのだ。自動車の組み立てのように人間が手作業で作るのではなく、ロボットが作るようなものだから、そのロボットを動かすためのソフトウエアが必要なのだと考えればよいだろう。
それに対して、ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらにソフトウエアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みへのこだわりという問題が生じたといわれる。また、レンズをどう活用して全体の性能を上げるかよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるという問題が発生したともいわれる。
結局、日本型縦割り組織を反映してすべてを自社で内製化しようとする考えが、負けたのだ。
核になる技術を持っていたからこそ成功できなかった
キヤノンもニコンも、核になる技術、つまり「レンズ」を持っていた。それに対してASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注している。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。しかし、それにもかかわらず、売上高の3割という利益を稼ぎ出すことができる。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう。
いままでは、「企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要だ」といわれてきた。しかし、ASMLは、このルールには当てはまらない。
部品について、ASMLは製造者ではなく購入者であったため、品質評価が客観的であったといわれる。また、多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったといわれる。
それに対して、技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ。