カメラに注力しなければ、世界は変わっていたかもしれない

現在のキヤノン、ニコンはどのような状態か? キヤノンは、時価総額が255億9000万ドル、世界第759位だ(2020年1月時点)。2007年には784億ドルだったのだが、このように減少した。

ニコンは、時価総額が41億8000万ドルで、世界第2593位だ。07年には126億ドルだった。2007年には、ASMLの時価総額は126億ドル程度で、ニコンとほぼ同じ、キヤノンの6分の1だった。しかし、いまでは、キヤノンの10倍程度、ニコンの60倍程度になってしまった。こうした状態では、日本の賃金が上がらないのも、当然のことといえる。

日本企業敗退の原因は、さきほど見た自社主義だけではない。もう一つは、ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したことだ。もし、2000年代の初めに、キヤノンやニコンがデジタルカメラに注力するのでなく、半導体製造装置に注力していたら、世界は大きく変わっていただろう。

給与が高い企業は、なぜ高い給与を出せるのか

2010年頃、日本では、円高などが企業にとっての「六重苦」になっているといわれた。そして、「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開すべきだといわれた。これは、勃興してくる新興国の中間層をターゲットに、安価な製品を大量に供給しようというものだ。ASMLとは正反対のビジネスモデルだ。そして、日本ではこの方向が受け入れられ、企業経営者もそれを目指した。その結果が、いまの日本の惨状なのだ。

野口悠紀雄『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』(日経プレミアシリーズ)
野口悠紀雄『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』(日経プレミアシリーズ)

もちろん、将来がどうなるかは分からない。半導体の微細化をさらに進めるために、三次元の回路を作ることも考えられている。そうした技術が実用化されたときに、はたしてASMLが生き残れるかどうかは、誰にも分からない。日本企業が再逆転してほしいが、はたしてできるだろうか? 奇跡が起こることを祈る他はない。

日本の上場企業の従業員平均年収について、ダイヤモンド・オンラインが毎年特集を出している。2021年の場合、トップはM&Aキャピタルパートナーズで、2269万9000円だ。一方、年収200万円台の企業もある。上場していない会社なら、年収がもっと低い会社もあるだろう。

このように、企業によって、給与には非常に大きな差がある。では、給与が高い企業は、なぜ高い給与を出せるのか? それは、業績がよいからだ。そのとおりなのだが、業績とは一体なんだろうか? どのような指標でそれを測ればよいのか?