売りが売りを呼び、急速に下落した

米国では労働市場が逼迫ひっぱくしている。賃金は上昇し、企業は増加したコストを販売価格に転嫁しやすい。その結果として米国の物価は上昇した。消費者物価指数(CPI)でみた米国の物価上昇率の上昇ペースには鈍化の兆しが出ているが、2%の物価目標水準を大きく上回っている。賃金インフレを退治するためにFRBは金利を引き上げて労働市場の過熱を早期に抑えなければならない。

その一方で、27日の討論会後の質疑応答において日銀の黒田総裁は、賃金と物価が安定的かつ持続的に上昇するまで金融緩和を行うとの認識を示した。わが国では個人消費の回復が鈍い。実質ベースで賃金は伸び悩み、需要は停滞している。その状況下、日本銀行は異次元の金融緩和を維持せざるを得ない。

ジャクソンホール会合は、日米の金融政策の方向性の違いが鮮明であることを主要投資家などが確認する重要な機会になった。投機筋はドル買い・円売りのオペレーションを増やす安心感を強め、一部投資ファンドは大規模な円キャリートレードを仕掛けた。それは他の投資家による追随の円売りを生み、9月7日に24年ぶりの円安水準である1ドル=144円99銭まで円が急速に下落した。

輸出にはプラス効果を与えているが…

当面の間、米国では金融がさらに引き締められ、わが国では異次元の金融緩和が続くだろう。短期的にドル高・円安は続く可能性がある。円安は、わが国の国内総生産=GDPにとっては全体としてわずかながらプラスの影響を与える。2022年4~6月期、わが国の実質GDP成長率は、前期比年率換算で3.5%だった。需要項目別に寄与度を確認すると、純輸出は0.27ポイントのプラスだ。自動車など主要企業の直近の決算内容を見ても、円安は業績にプラス効果を与えている。

ただし、円安が経済に与えるマイナスの側面が増えていることは軽視できない。特に、輸入物価の急速な上昇は深刻だ。日本銀行によると、8月の輸入物価指数は前年同月比で42.5%上昇し、国内企業物価指数(海外では生産者物価指数と呼ばれる)は同9.0%上昇した(いずれも速報値)。