「同調圧力の強さ」が話し合い下手の根本原因
日本人が話し合いを苦手としている原因の1つは、日本人が「単一」に近い民族から構成されていて(※注)、「同質性が極めて高い集団」の中で、お互いに同調行動(皆が同じような行動)をとりながら、日常生活を送っているからです。
※注……近年の人文社会科学の研究は、日本人が「完全に単一」の民族ではないことを明らかにしています。ですから日本人といっても、多様性に満ちています。なお、日本人というアイデンティティすらも、実は明治期以降の国民国家の形成によってつくられたものであることを付記しておきます。
かつて日本社会の集団特性について文化人類学的に考察したのは東京大学教授の中根千枝氏でした。中根氏は、『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』(1967年、講談社)において、単一の集団からなる日本人は「場を共有すること」に執着する傾向があり、「場への全面的、全人格的なエモーショナルな参加」を、相互に求め合うことを指摘しています。つまり日本人は他者に対して、個のすべてをかけて集団に関わることをともに求め合う傾向があるというのです。
かくして「すべてを集団の場にささげ合う」ことの先に、その集団内部には強烈な「ウチ意識」が生まれます。反面、集団の外部に広がるいわゆる「ソト」には、「排除的」になる傾向があります。さらに、ウチの内部では「閉鎖性」が生まれ、人々がともに「同調行動」をとっていくこともあります。ここで同調行動とは、「人々が周囲の行動や意見に合わせて自らの言動を決める傾向」のことをいいます。
このことは、「出る杭は打たれる」という言葉に象徴されます。同調圧力が非常に強く、そこからはみ出す「出る杭」は、皆から打たれやすい傾向があります。
「話し合い」に関していえば、「みんなの前で、こんなことを言ってしまったら、後から刺されるかもしれない」と「出る杭」になる行為を恐れ、発言をためらいがちです。
日本は「心理的安全性」が低い社会
これに関連してここ数年、日本でも「心理的安全性(Psychological Safety)」という言葉が注目されています。心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が、今から20年くらい前に、組織論(チーム研究)の中で用いた概念です。
エドモンドソン教授によれば、心理的安全性とは「この集団で、リスクを取って何かをしたとしても、対人関係上の危機が生まれない」ことです。話し合いで言えば、「心おきなく自分の意見を言っても、村八分にされないこと」です。
あえて、この流行語を用いて、日本人の傾向を表現するならば、「日本は、同質性が高く、同調行動が望まれることが多いが、心理的安全性が低い国」ということになるのだと思います。
かくして、人々は空気を読むことを重んじます。空気を乱すようなことを言うと、すぐに「出る杭」になります。このような環境があるために、何か皆の前で発言することに非常にリスクが高い、と感じてしまうのです。