今回は共鳴する事業者の動きがみられない
これまで政府がエネルギー政策を本気で転換した時には必ず、それに先行して政策転換につながる電気事業者の具体的な動きがあった。
2020年7月、安倍晋三政権の梶山弘志経済産業相が新しい送電線接続ルールとして空き容量を柔軟に活用できるノンファーム型接続を採用した際には、東京電力パワーグリッドがその前年から千葉県でそれと同じ接続方式を実践していた。
20年10月、菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルをめざす」と宣言した際もそうだ。直前に日本最大の火力発電会社であるJERAが、石炭火力をアンモニア火力に転換し、LNG(液化天然ガス)火力を水素火力に変える「カーボンフリー火力構想」を発表し、風力や太陽光という変動電源が拡大しても二酸化炭素を排出しない形でバックアップを行うことを可能にする仕組みを明示していた。
しかし、今回は様相が違う。次世代革新炉の開発・建設と言っても、それと共鳴する事業者の動きはない。だから、「誰が、どこで、何を」という具体的な言及がないのである。
厳しい見方をすれば、次世代革新炉の開発・建設を掲げてはいるが、本当のねらいは既設原発の運転延長にあるのではないか、とも言える。
「古い原発の運転延長」を語るべきではない
技術者の育成等の観点から、次世代革新炉の開発は、国民的支持を得ることが相対的に容易である。それを一種の「目くらまし」にしながら、実は既設原発の運転延長を企図する。このようなねらいがなければ、論理的に矛盾する(1)の次世代革新炉の開発・建設と(2)の既設原発の運転延長とを、セットで打ち出すことはなかったのではあるまいか。
そもそも、既設原発の運転延長は、きわめて筋が悪い議論である。原子力発電を何%であれ使い続けるのであれば、危険性の最小化が大前提となる。そのためには、古い炉よりも新しい炉の方が良いことは、論をまたない。その意味で、原子力政策としては、「リプレース・新増設」を語るべきで、「古い原発の運転延長」を語るべきではない。
確かにアメリカ等では既設原発の運転延長が進んでいるが、「地震・津波・火山リスク」がある日本にこれをあてはめることは危険であろう。1971年3月に運転を開始した東京電力・福島第一原子力発電所1号機は、まさに40歳の誕生月(2011年3月)に水素爆発した。これを教訓に、自民党や公明党も賛成して、原子炉等規制法を改正し、「40年廃炉基準」を導入したことを忘れてはならない。