具体的な建設計画が出て初めて「政策転換」となる
本稿の冒頭で、岸田政権が8月に示した原子力に関する方針は、「誰がどこで何を建設するか」について言及していないから、政策転換とみなすには時期尚早だと書いた。
しかし、もし年末までに、「関西電力が(場合によっては中部電力や九州電力の協力を得て)、美浜発電所で原子炉のリプレースを行い、古い加圧水型原子炉の3号機を廃止して、次世代軽水炉の4号機を建設する」とか、「日本原子力発電(原電)と関西電力が、空き地となっている原電・敦賀発電所の3・4号機の予定地で、高温ガス炉を建設し、あわせて水素発電を行う」とかいうような具体的な方向性が示されることになれば、「政策転換」が本物になったと評価してよいだろう。
いま原子力政策を動かそうとするのはなぜか
それにしても岸田政権は、なぜこのタイミングで、原子力に関して一歩踏み込んだ発言を行ったのだろうか。
もちろん、7月の参議院議員選挙で与党が大勝し、今のところ2025年7月まで国政選挙が予定されていない「黄金の3年間」が始まったという事情は、考慮に入れているだろう。しかし、それ以上に、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー危機が世界に広がり、電力不足への懸念が強まって、原発の稼働に対する期待が高まっている状況を重視したと言っていいだろう。
ドイツでは、今年中に原発を全廃する予定であったが、2基を予備電源として、来年4月半ばまで残すことを決めた。ベルギーも、2025年に予定していた原発の全廃を、10年間先延ばしすることにした。日本でも、最近の読売新聞の調査によれば、原発の再稼動について、賛成が反対を上回った。2011年の福島第一原発事故後、初めての出来事である。
このような状況を念頭に置いて岸田政権は、(1)の「次世代革新炉の開発・建設」と抱き合わせで、(3)の「7基の原子炉の来夏・来冬以降の新たな再稼動」を打ち出した。しかし、すぐにわかることだが、(1)の「次世代革新炉の開発・建設」は、10~20年以上かかる事柄である。
プレジデントオンラインの記事<より深刻な電力危機は、この夏よりも「冬」である…日本が「まともに電気の使えない国」に堕ちた根本原因>で東日本が今冬、今夏以上の電力逼迫に見舞われるリスクについて解説したが、こうした当面の電力不足の解消とはまったく関係がない。にもかかわらず、(1)と(3)をセットで提示することに岸田政権の「狡猾さ」を感じとるのは、筆者だけではあるまい。