古い原発を新しい炉に建て替える「リプレース」
筋が悪い「既設原発の運転延長」論とは対照的に、原子力政策において「リプレース・新増設」を語ることには意味がある。ただし、ここでは、2つの点に留意すべきである。
1つは、今日の日本においては、原発の新規立地はきわめて困難であるから、現実には「新増設」は既設原発と同じ敷地内で行われる点である。もう1つは、「リプレース・新増設」を行うことは、「原発を増やす」ことを意味しない点である。
「リプレース・新増設」の本質的な価値が原発の危険性を小さくすることにある以上、「リプレース・新増設」を進めるに際しては、並行して、より危険性が大きい古い原子炉を積極的にたたむべきである。つまり、既設原発と同じ敷地内で行われる「新増設」は、古い炉を新しい炉に建て替える「リプレース」として行われるべきなのであり、「リプレース・新増設」という表現ではなく、建て替えを意味する「リプレース」という言葉に集約すべきだということになる。
日本は、2018年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画を契機に、「再生エネルギー主力電源化」の方向に舵を切った。「再生可能エネルギー主力電源化」は、「原子力副次電源化」と同義である。これらの事情をふまえるならば、わが国の原子力政策の主眼は、古い炉を新しい炉に建て替える「リプレース」を進めながら、原発依存度を徐々に低下させることに置かれるべきである。
次世代軽水炉と高温ガス炉は実現する価値がある
「リプレース」を進めるにあたって、筆者が注目している炉型が2つある。次世代軽水炉と高温ガス炉だ。
日本の原発設備は、最新鋭であるとはとてもみなせない。全体の半分強(17基)を占める沸騰水型原子炉については、最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)が4基存在する(東京電力・柏崎刈羽6/7号機、中部電力・浜岡5号機、北陸電力・志賀2号機)。だが、残りの半分弱(16基)の加圧水型原子炉については、最新鋭のAPWR(改良型加圧水型軽水炉)やAP1000(第3世代の加圧水型軽水炉)が皆無である。
中国では、2018年にAP1000やEPR(欧州加圧水型炉)が稼働したにもかかわらず、である。このような状況を改善するためには、とくに古い加圧水型原子炉を次世代軽水炉にリプレースすることが、重要な意味をもつ。
いわゆる「新型炉」のなかでは、高温ガス炉に期待したい。電力だけでなく、900℃以上の熱を利用して水素を生産することができるからである。水素は、日本のカーボンニュートラル戦略の帰趨を決するキーテクノロジーであるが、製造コストが高い点に問題がある。
製造コストを下げるために、現在進行中の水素プロジェクトの大半は、グリーン電力の料金が日本国内より安い海外での生産を予定している。しかし、それでは水素を輸入することになり、わが国のアキレス腱であるエネルギー自給率の低さを解消することにはならない。もし、高温ガス炉が国内に建設されれば、低コストで大量の水素を生産することに道を開く。水素国産化の展望が開けるのである。