岸田文雄首相は、電力需給の逼迫が懸念される今冬に最大9基の原発を稼働させる方針を表明した。これで電力危機は回避できるのか。国際大学の橘川武郎教授は「この9基はすでに再稼働済みのもので、岸田首相の発言は新たに再稼働する原子炉が皆無であることを確認したものだ。この状況では、稼働できる原発のない東日本は2023年1~2月、今夏以上の電力逼迫に見舞われるだろう」という――。
ぶら下がっているたくさんの電球
写真=iStock.com/joshblake
※写真はイメージです

電力逼迫の根本的な原因は供給サイドにある

需給逼迫ひっぱくと料金高騰のダブルパンチを浴びて、危機的な状況に陥っている日本の電力。なぜ電力危機は起きたのか、いつ、どこで危機は正念場を迎えるのか、について考察してみよう。

今年の6月末から始まった電力需給の逼迫は、直接的には、気温の急上昇による冷房需要の急伸という需要サイドの要因によって引き起こされた。しかし、短期的な需給逼迫が昨年1月や今年3月にも生じたことからわかるように、根本的な原因は供給サイドにあると見るべきである。

供給サイドの要因としてしばしば指摘されるのは、①再生可能エネルギーの普及の不十分性、②原子力発電所の再稼働の遅れ、③東西間の送電連系の脆弱ぜいじゃく性などである。これらについて、2016年の小売全面自由化で本格化した電力自由化の結果だとみなす議論が一部で根強い。

「電力自由化が悪い」はまったく的外れ

しかし、このような見方は、まったく的外れである。①と③は、2016年以前から強く問題視されていた点であり、電力自由化の結果として生じたものではない。②は2011年の東京電力・福島第一原子力発電所事故の帰結であって、自由化とは関係がない。

電気料金の高騰についても、それが電力自由化の設計ミスの結果だとする議論は間違っている。料金高騰の原因はあくまでLNG(液化天然ガス)・石炭等の火力発電用燃料の価格上昇であって、たとえ電力自由化がなかったとしても、今回の料金高騰を回避することはできなかったであろう。

端的に言えば、現在の電力危機は電力自由化の結果ではない。電力自由化は、独占の廃止による消費者にとっての選択肢の拡大、競争原理の導入による電力会社のガバナンスの向上など、多くのメリットをもたらした。悪いのは、自由化ではない。真の原因は、別のところにある。