黄砂を悪化させた「中国の経済成長」

かつては春の風物詩だった黄砂が、近年はなぜひどくなったのか。

風が強くなるなどの自然現象というよりも、表土の攪乱かくらんが強まり土が舞い上がりやすくなったからだという。

攪乱とは、過度な耕作や大規模な土木工事である。

乾燥地であるこの地域の農地も、従来はそんなにひどく土壌が剥き出しではなかった。伝統的な農法は、あまり耕さず、また範囲も限られていた。おかげで大部分の表土は守られてきた。

ところが中国の経済成長が続くと、より農地を増やそうと草原の耕地化が進んだほか、畜産でも放牧頭数を増加させたため、草を根こそぎ食べられてしまう。

さらに地下資源(金や石炭)の採掘なども大規模に行われた。

こうした開発が急速に進んだことこそ、黄砂の激化の原因と考えられる。

薬草の採取で草原が砂漠化

深尾教授が挙げる具体例は、内モンゴルの草原に生える「髪菜はっさい」の採取である。

髪菜は、見た目は黒いモズクかヒジキのような形状だが、その正体は原始的な生物であり光合成をする藍藻らんそうの一種のシアノバクテリアだった。これが内モンゴルの草原を覆っていて、表土の飛散を防いでいたのだが、近年薬膳料理の素材として持てはやされるようになった。

そのため健康食として価格が高騰し、競って採取するようになったのだ。

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だが長い年月の末に形成された大地の被覆だけに、一度採取されると回復しない。土が剥き出しになり水分も奪われやすくなる。そのため草原の砂漠化を進めてしまった。

ほかにも漢方薬の材料となる「甘草かんぞう」も根こそぎ採取される。

また採取者は野営しながら採取するが、その際にヤナギなど在来の植物を掘り取って燃料にする。それが植生の破壊に拍車をかけた。

なお黄砂からはアンモニウムイオン、硫酸イオン、硝酸イオンなども検出されている。飛散途中で人為的な大気汚染物質を吸着しているからとされるが、耕地に散布された化学肥料由来の可能性もある。

いずれにしろ、人為的要素が高い。そして、それらが健康被害をもたらしている。