世界が対立を煽る中、冷静に現実を見ている
台湾の人々の“悲しい運命”というのは、「台湾は国なのか、そうでないのか」という根本問題の解決でさえも、米中の二大国の思惑に握られているところにある。台北出身で東京に在住する陳淑華さん(仮名)は、「戦後、多くの国が独立国になった。台湾も日本の植民地支配から解放されたが、いまだ国にはなれない。“誰か”から国だと認められない限り、国を名乗れないのでしょうか」と問いかける。
台湾の人々に残された選択肢がおのずと「現状維持」に傾くのは、上記の複雑な事情からだ。そんな市民の心に響くのは「小確幸(目の前の小さな幸せ)」。コロナ前に里帰りしていた張玉英さん(仮名)は、台湾市民の心情についてこう受け止めている。
「未来を展望することが困難な台湾人にとって唯一確実なのは、大切な家族とともに築いた“今の生活”。その生活を犠牲にしてまで台湾の人々が戦うとは思えない」
前掲のアンケートには「中国がいつでも台湾に対して戦争を開始することは可能だと思うか」という調査もあった。実に52.7%が「不可能」だと回答している。日本の世論調査では、台湾侵攻を「懸念する」と答えた日本人が75%以上に上っているが、台湾市民は心のどこかで中国は攻めてこないと思っているのだろう。対立を煽る米国や地元メディアとは対照的に、台湾の人々は冷静に現状を分析している様子が分かる。
台湾人であれ中国人であれ、「家族の団欒」こそが最大の価値であり、安定や平和をみすみす壊してしまう戦争など誰も望んでいないのである。