「私の子どもじゃない」疎ましく思う気持ちが大きくなった

本を読んだ彼女の気持ちは揺らいだ。

何より、「私の身体は、もうボロボロで、年寄り以上」と語った通り、心身が疲れ果てていた。統一協会信者の離婚は、役所に届けを出せば終わりというわけではないが、それでも「家を出て一人で生活したい」と考えたそうだ。

何より、「二人の子どもたちを見る彼女の母親としての視点が変わった」という。「二人の子どもたちは文鮮明の子で、私の子どもじゃない」と思うと、疎ましく思う気持ちが大きくなっていったのだ。

親の変化に敏感な二人の子どもは、不安から、それまで以上に母親にまとわりつくようになった。そうすると、“文鮮明”の子どもにまとわりつかれていると感じる母親は、ますます我が子を疎ましく思う。

二人の子どもたちは結局、九州の父方の実家に預けられることになった。

その日の彼女の相談というのは、「子どもたちが高熱を出して死にそうだから迎えに来て欲しいと電話があったが、どうしたらよいか」というものだった。

その女性は、子どもたちから離れ、ボロボロになった自分の心身を休ませて、今後のことを静かに考えたいと願っていた。

私は、児童相談所に行って、子どもを虐待しそうだから保護してほしいと頼むのがよいとアドバイスした。しかしそう話しながらも、カルト教団への怒りと、子どもたちを不憫に思う気持ちで、胸がいっぱいであった。

カルト教団のマインド・コントロールにかかってしまった親も被害者だが、何も知らずにこの世に生まれてきた子どもたちはもっと悲惨な被害者である。

ホームオブハートでも児童虐待が横行していた

ロックバンド「X JAPAN」のボーカル、TOSHI(現、Toshl・龍玄とし)がのめり込み、X JAPAN解散の原因にもなった自己啓発セミナー「ホームオブハート(HOH)」を覚えておられるだろうか。

ホームオブハートはもともと、レムリアアイランドレコードという会社で、ヒーリングミュージック関係のビジネスを展開していた。ホームオブハートと社名を変えて以後、自己啓発セミナーを行うようになる。主催者は、MASAYA(本名、倉渕透)。

Toshlは、『洗脳 地獄の12年からの生還』(2014年、講談社)のなかで、彼が家族関係で悩んでいるときにホームオブハートに勧誘され、洗脳集団のなかで12年間を過ごし、脱会後、代理人(弁護士)をつけて損害賠償を求めて裁判を起こすまでの日々を綴っている。

洗脳されたTOSHI(当時、以下略)は、ソロでMASAYA氏の楽曲を歌うようになっていたことでも知られる。

勧誘を受けたTOSHIは、ホームオブハートの教団施設の地下にある薄暗いホールで、MASAYAの囁くような歌声を聞かされたことをきっかけに洗脳されていったという。

その他、ホームオブハートが行った自己啓発セミナーは、1977年に日本で設立された自己啓発セミナー団体「ライフ・ダイナミックス」の手口を模倣していたとされる。