なぜ霊感商法の被害はなくならないのか。フリーライターのいのうえせつこさんは「壺や印鑑を売りつけるといった、わかりやすい手口ばかりではない。悩みを解決する世話役の顔をして、家族に入り込んでいるケースが後を絶たない」という――。
※本稿は、いのうえせつこ著、山口広監修『新宗教の現在地』(花伝社)の一部を再編集したものです。
霊感商法は壺や印鑑から始まるとは限らない
霊感商法とは、「先祖の祟り」などの文句を使って、壺や印鑑などの物品を「幸運を呼ぶ」と謳って法外な値段で購入させたり、多額な献金を強要したりするものである。
時には、合同結婚式が利用される場合もある。
五年ほど前のことである。私が住む首都圏郊外には、まだ農家も点在している。そのうちの一軒の農家は、田畑も地域のなかでは大きく、屋敷も広くて、地元の農家の中では世話役として、周囲から頼りにされていた。
ただ、悩みもあった。一人息子は体が弱く、40歳を過ぎても、結婚運に恵まれないことだった。
そこへ、「働き者の、いいお嫁さんを息子さんにお世話しましょう」と、親切そうな中年の女性が訪ねて来て、「世界的に有名な合同結婚式です。経費は100万円ほどかかりますが」と、誘った。その家のご両親は、「100万円で働き者のお嫁さんが来てくれるなら」と、息子を合同結婚式に参加させた。
やって来たお嫁さんは、息子より少し年上の、明るい女性だった。だが、彼女が農業をしてくれたのは最初だけで、だんだんと、「この家が不幸なのは、ご先祖様を大切にしないからだ」と言って、「先祖供養のために」と、貯金を下ろすことを両親に迫り始めた。いつしか、農作業はまったくしなくなった。