一度サインしてしまっても諦めなくていい

ご夫婦によると、最近では家庭連合(旧統一協会)から「念書」のようなものを書かされたという事例が増えているという。

「脱会後、統一協会に対して「献金を返せ!」という訴えが多数あるために、「念書」を書かせているのでしょう」とのことだ。

この「念書」をめぐって裁判になった事件の資料を、対策弁連の山口広弁護士にいただいたので紹介しよう。2020年2月28日の、東京地方裁判所での判決である。

原告は、当時五七歳の主婦。夫と一人息子を亡くして悲しんでいたところに訪ねて来た統一協会の会員が、「夫や息子が地獄で苦しんでいる」などと不安感や恐怖感を煽り、原告に家系図を作らせ、それを用いてさらに不安感を持たせたうえで、地域の統一協会の施設に通わせた。その施設で、ビデオ講義や講師との会話から、息子や夫の苦しみは「先祖の因縁」によるものであると思いこまされた原告は、多額の金銭を献金等の名目で支払った。後に、これら多額の献金は違法であるとして、原告が返金を請求したところ、統一協会側は、原告に不利益な「合意書」を作成させた。

この裁判においては、この「合意書」の有効性について争われたが、結果は原告の勝利。「合意書」は無効とされた。原告は、「合意書」に一度はサインしたにもかかわらず、勝訴を掴んだ。こうした判例が広く知られれば、統一協会による組織的かつ卑劣な行為に歯止めがかかるかもしれない。

印鑑を押す手元
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果樹園が1億円の献金に化けるまで

「家族の会」を訪ねた帰り際、事務局長ご夫妻から、「来週、東京地裁で霊感商法の裁判がありますよ。傍聴にいらっしゃいますか」と言われた。私はもちろん、二つ返事で「はい、行きます」と答えた。

2020年10月16日、雨模様の中、私は東京地方裁判所に駆け付けた。今日行われる霊感商法の裁判は、午前10時から午後5時まで行われるという。

裁判所に着いて、東京地裁806号に向かって左側のエレベーターに乗る。「平成20年(ワ)105号」と書かれた部屋に入ると、向かって右側が被告である家庭連合側、左が原告である被害者側である。私は傍聴席の中央、一番前に腰を下ろした。傍聴席は、コロナウイルス対策で、一つ置きの着席となっている。午前10時きっかりに、裁判官が登場。全員、立ちあがって黙礼。

原告の証人尋問によると、事件の概要は次のようなものであった。

被害者は、N県に住む高齢女性。3人の娘を育てあげた後も、農業従事者として働いていた。所有していた果樹園をはじめとする不動産や貯金などの全財産を、家庭連合に献金の名目で取り上げられたとして、その損害賠償を求めている。認知症で高齢者施設に入所中の本人に代わって、本人の成年後見人に選任された長女が統一協会を訴えた。

「献金」の概要は次の通り。

最初は、「借り入れ」と称して300万円。その後は、果樹園などを売却させて、2500万円を3回に分けて回収。被害額の合計は1億円以上にのぼった。