「安倍総理はうそつきです」と言い放ったニュースキャスター

「没落し、もう重要ではない。外交で気を使うべき国ではない」「戦犯国家日本」「歴史を反省しない、慰安婦の問題を認めない」「独島(竹島)への領有権を主張するという帝国主義の残滓ざんし」といった表現が、政治家の発言やメディアで頻繁に用いられる。非礼というのを超え明白に事実に反する面があり、MBCの各国揶揄より悪質だ。

さて、このMBCの件で私が思い出したのは、2013年、KBSテレビの朝7時のニュースで、キャスターが「安倍総理はうそつきです」と言い放ったことだ。キャスターによれば、安倍総理は、竹島を自国領と述べたこと、福島原発事故についての発言等いくつもうそを重ねたというのだ。大使館の同僚から連絡を受け、知人であったKBS副社長にすぐ指摘し、抗議した。ほどなく彼から謝罪があった。

写真=時事通信フォト
自民党安倍派の政治資金パーティーで、あいさつする安倍晋三元首相=2022年5月17日午後、東京都港区

「申し訳ない。チェックが働いていなかった。上に相談せず、若いキャスターの一存で言ったのだが、考えられない発言をしてしまった」。何重にも問題のある放送だった。名門大学卒で若く見栄えが良いキャスターとして人気上昇中だったと聞く。

「いやそんな、政治が絡む話などしませんよ」

1980〜90年代と比べれば、韓国社会には大きな変化があった。経済と社会の発展はめざましい。心から敬意を表したい。職業や男女、人種の差別意識は、目に見えるところでは少なくなった。日本の一部には誤解もあるが、韓国人は周囲の目をとても気にし、学歴や宗教、ときに出身地の話題には神経を使う。「差」「色分け」が現れるのを恐れるのだ。

ソウル大学卒のビジネスマンの知人は、初めて会った人たちとの間で出身大学が話題にならないか、いつもびくびくするそうだ。自分だけがソウル大卒だとわかると気まずいからだという。

もう一つの例。記者出身の知人から「毎月十数人集まって懇談会をする。道上さん、今度来て日本や中国の話をしてください」と声をかけられ、「いいですけど、参加者はどういう人たちですか。保守とか進歩とか?」と聞くと、一笑に付された。「いやそんな、政治が絡む話などしませんよ。考えの違いが出て気まずくなりますし」と。

「豊かな成熟社会」を物語る話なのだろうか。政治の「あるべき論」を熱く議論する、私の知る韓国でなくなったようで、物足りなさも感じた。いい意味での成熟社会というより、「金持ち喧嘩せず」、「人の顔色を見て波風立てない」、小市民的な大勢順応なのか。20年前、「成熟社会だから日本を合理的に見る。非理性的な感情はコントロールできる」と言っていた、その成熟とは違うような気がする。