それでも日本の食料自給率は上げられる

世界の米生産は1961年に比べ3.5倍に増加している。残念ながら、農家による宅地等への農地転用などで水田面積は1970年の350万ヘクタールから240万ヘクタールに減少しているが、世界の増産努力を考慮すると、減反を廃止すれば、3000万トンまで生産を拡大できるはずだ。一気にこの水準に到達できないとしても、面積当たりの収量をカリフォルニア米程度に増加させれば、1700万トンの生産は難しくない。

国内生産が1700万トンで、国内消費分700万トン、輸出1000万トンとする。米の自給率は243%となる。現在、食料自給率のうち米は20%、残りが17%であるので、米の作付け拡大で他作物が減少する分を3%とすると、この場合の食料自給率は63%(20%×243%+17%-3%)となり、目標としてきた45%を大きく超える。米生産が3000万トンとなれば、食料自給率は100%となる。輸入が途絶したときは、輸出していた米を食べるのだ。輸出は無償の備蓄である。

医療サービスのように、通常なら財政負担をすれば国民は安く財やサービスの提供を受ける。ところが米の減反は、農家に補助金を与えて生産を減少させ、米価を上げて消費者負担を高めるという異常な政策である。国民は、納税者、消費者として二重に負担している。

麦、大豆と異なり、減反廃止には金がかからないどころか、財政支出を軽減できる。減反補助金3000億円が不要となる。米価低下で影響を受ける主業農家には、1500億円ほどの直接支払いで十分だし、かれらが規模を拡大して生産性を向上すれば、この金も要らなくなる。麦、大豆などへの財政支出は廃止して、その一部を使用して安い穀物を輸入して備蓄すればよい。

重要なのは生命維持できる総カロリーに対する数値だが…

山下一仁『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)

真剣に食料安全保障の観点から食料自給率を設定しようと思うのであれば、国民が生命を維持できる総カロリーに対して、石油などの輸入も途絶したときに、国内生産で供給できるカロリーを提示すべきである。

それが国民の目に明らかになれば、どれだけ米生産を拡大しなければならないのか、ゴルフ場などを農地に転換してどれだけ農地資源を増大しなければならないのか、国産では不十分な穀物をどれだけ輸入して備蓄しておかなければならないのか、がわかる。

しかし、農林水産省やJA農協が、そのような数値を提示するとは思えない。提示した途端、米を減産する減反政策、農地を簡単に転用させる農地政策という、彼らが推進してきた政策が国民の利益を無視してきたことが白日の下にさらされるからだ。

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