「資源小国」と呼ばれる日本で、いま注目を浴びている「国産資源」が人糞だ。ジャーナリストの山口亮子さんは「人糞を処理してできる下水汚泥には植物の生育を促進するリン酸が豊富に含まれているが、多くが捨てられている。これを肥料に使おうとするプロジェクトが始まっている」という――。
処理された下水からなる「国産肥料」
下水道業界が、空前の肥料ブームに沸いていると感じた。2024年7、8月に4日間にわたって開かれ、5万人近くを集めた国内最大の下水道を巡る展示会「下水道展」でのことだ。会場のそこここに、場違いにも思える肥料が展示してあった。
原料は、下水だ。私たちが日々、トイレや台所の流し、洗面所、風呂などから流す生活排水は、一般的に排水管から下水管に注ぎ込み、下水処理場に流れ込む。そこで微生物によって分解されて、泥状の下水汚泥になる。
下水汚泥の発生量は、年間で235万トン(2022年度、国交省調べ)に上る。この下水汚泥は、植物の生育に欠かせない栄養素である窒素とリン酸を豊富に含む。海外から輸入する肥料の原料が値上がりしており、貴重な国産資源として注目されている。
100億円以上のリン酸が含まれている
なかでも中国が近年定期的に輸出を止め、高値になっているのがリン酸だ。下水汚泥に含まれる量は、12万トン近くになると見積もられている。これだけのリン酸が含まれる肥料の原料を輸入しようとすると、今の国際相場からすると100億円を優に超える。
この冬は、キャベツやハクサイといった野菜の値上げが話題になっている。価格を押し上げた最大の原因は天候不順であるものの、肥料の高騰も要因の一つだ。世界の人口増加に伴って、肥料の価格は右肩上がりで推移していくと予測されている。円安の続く日本にとって、輸入肥料はますます高いものになりかねない。だからこそ、国内で調達できる資源として下水汚泥が期待を集めている。