肥料に使っているのはたった14%

国交省は2023年、下水処理場を対象とした分析調査を行った。その結果を、上下水道企画課企画専門官の末久すえひさ正樹さんが説明する。

末久正樹さん
著者撮影
末久正樹さん

「リン酸が脱水汚泥などに平均で4、5%含まれていました」

肥料の原料にするのに堪えるだけのリン酸が含まれていると改めて確認できたわけだ。

下水汚泥の各所加工品
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下水汚泥の各種加工品

ところが、実際に肥料などとして使われる下水汚泥は、全体の14%に当たる32万トンにとどまる。

全国に約2200カ所ある下水処理場の多くは、下水汚泥を廃棄物として処理業者に引き取ってもらっている。

「地域によって上下しますが、基本的にトンあたり1万円から2万円程度の処分費が掛かります」(末久さん)

なお、下水汚泥の相当量はセメントや下水管といった建設資材としてリサイクルされている。とはいえ、下水汚泥は建設資材に向く訳ではない。リンを豊富に含むため、混ぜ過ぎるとコンクリートやセメントが固まりにくく、強度不足に陥りやすくなる。

使える資源に処分費を払い、しかも86%が肥料にされないというのは、実にもったいない。

マリオにあやかった「Bダッシュプロジェクト」

下水汚泥の肥料利用を本格化させたのが、岸田文雄前首相の鶴の一声だった。2022年9月に開かれた政府の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部の会合で、岸田首相(当時)は野村哲郎農林水産大臣(同)に対し、次のように指示した。

「下水道事業を所管する国土交通省等と連携して、下水汚泥・堆肥等の未利用資源の利用拡大により、グリーン化を推進しつつ、肥料の国産化・安定供給を図ること」

人や家畜の糞尿を肥料の国産化に生かせと号令を掛けたわけだ。国交省は下水汚泥の用途として、肥料化を最優先とする方針を掲げた。

これを受けて、下水道の関連事業者が続々と下水汚泥の肥料化に乗り出している。その後押しをするのが、「Bダッシュ(B-DASH)プロジェクト」だ。

正式名称は、「下水道革新的技術実証事業」。新技術の研究開発と実用化を加速する事業だ。その英語表記“Breakthrough by Dynamic Approach in Sewage High Technology Project”から頭文字を取ってB-DASHにしたというのが、所管する国交省の公式見解だ。

「Bダッシュ」といえば、任天堂のファミコンゲーム「スーパーマリオブラザーズ」を思い浮かべる人もいるだろう。コントローラーの「Bボタン」を押して、キャラクター・マリオの移動速度を上げることをいう。

スーパーマリオのおもちゃ
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「ネーミングを考えた当時の担当者は、コントローラーに付いている『Bボタン』を押して、マリオの移動速度を上げるように、この事業を通じて下水道分野の技術開発が加速するよう思いを込めたのでは」と末久さんは話す。

なにせ、このプロジェクトの前身になったのは、「Aジャンプ(A-JUMP)プロジェクト」。「Aジャンプ」は、「Aボタン」を押してマリオをジャンプさせることをいう。やはり「水道革新的技術実証事業」という長い名称の頭文字“Aquatic Judicious & Ultimate Model Projects”から取ったことになっている。

国民的ゲームにあやかって、下水道に爆速の進化をもたらす。そんな願いが、Bダッシュプロジェクトには込められているようだ。