30年近くも賃金がほぼ横ばい状態の一般社員
賃金が上がらない状況は今に始まった話ではない。OECDの一人あたり実質賃金の伸び率の国際比較によると、1991年を100とする日本のフルタイム雇用者の実質賃金指数は2019年も105にとどまる。30年近くも、ほぼ横ばい状態といっていい。一方、イギリス148、アメリカ141、ドイツ・フランス134と着実に上昇している。
賃金が上がらない理由には諸説あるが、1つは企業がため込んでいる内部留保(利益剰余金)を人材投資(人件費)に出し渋っているとの説だ。実際に大企業(資本金10億円以上)の利益剰余金は、2000年度は88兆円だったが、20年度は154兆1000億円増の242兆1000億円に膨れ上がっている。
また企業の現預金は、2020年度は2000年度の48兆8000億円から90兆4000億円と85.1%増なのに対し、人件費は2000年度51兆8000億円から2020年度は51兆6000億円とマイナス0.4ポイントになっている。また株主への配当金は2000年度3兆5000億円から2020年度は20兆2000億円。実に483.4%増と大きく伸びている(財務省「法人企業統計調査」を基に新しい資本主義実現会議が作成)。
株主の配当金が株主総利回り(TSR)という指標によって役員の報酬を引き上げていることは前述したが、株高と業績向上の恩恵を受けているのは明らかに株主と役員だ。
役員と社員の報酬格差は欧米企業に比べて低いとの声もある。しかし今では、欧米では株主重視路線の転換を叫ぶ声や、社員とCEOの報酬格差の拡大に批判も巻き起こっている。
ましてや日本の労働者の実質賃金がマイナス状態を維持し続けているのは、どう考えてもおかしいだろう。役員報酬の高騰は、多くの社員の犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならない。