社員が決めたビジョンに基づいて経営陣が戦略を練る

「僕たちの提起した、5年後、10年後を見据えた中長期ビジョンが、経営戦略に実際に生かされると知ったときは、自分も、会社を支えている一員なのだと大きな感動がありました」

この実感を分かち合いたいという気持ちで、秦氏は日々インナーブランディング活動に情熱を傾けている。13名からスタートしたブランドリーダーは、05年度には107名、06年度には142名と数を増やして会社を挙げて取り組み、その成果は社員の意識調査でも明らかになっている。

「当社で働いていることに誇りを持っているか?」という設問にYESと答えた人が、04年度の40.4%から06年度には48.1%に上昇し、社員の意識が着実に変化していることがわかる。

「BIOSは即効力のある西洋医学ではありません。じんわりと効いてくる東洋漢方なんです」、そう兎洞氏が言うように、BIOSは年単位の長期プログラムなのである。

創業25周年を節目に基本理念を改めて考えようと、05年から、BIOSを活用したインナーブランディングに取り組んでいるファミリーマートの場合、ファシリテーターを育てる第1回のワークショップは、全社のほぼ全部門から代表者が1名ずつ選出される計60名の一大プロジェクトとなった。全国から1週間に1度メンバーが集まり、まる1日がかりのプログラムに全社で取り組んだ。メンバーには他の業務に優先して、この活動に時間を割くよう社達が出され、トップのブランドにかける意気込みは、メンバーにストレートに伝わった。

BIOS導入にあたり、博報堂ブランドチームから事前のプレゼンテーションを受けた総合企画部マーケティング室 マーケティンググループの岩崎浩マネジャーは言う。

「この時点で、ファミリーマートブランドのキャッチコピーを、『気軽に心の豊かさ』に決めてはいました。しかし、『ESなくしてCSなし』、従業員の心が豊かでなければ、お客様に満足なサービスを提供することなんて、できるわけがないですよね」

考えた結果、部門ごとのブランドスクールは、会社に対する文句を吐き出すことからスタートした。社内の問題点は、社員の本音を引き出せて、初めて見えてくると思ったからだ。

「予想通り、あそこが悪い、ここが悪いとうんざりするくらい次々出てきた(笑)。その後、改善案討議に移ったのですが、このプロセスで正解でした。『気軽に心の豊かさ』を具体的な行動指針に落とすとしたら? などといきなり問われても、みんな腹の中では、そんなきれいごとを急に言ったって、社内には様々な問題があるのにと思ってしまう。そのマイナスの感情を先に引き出せたことで、どうすれば解決できるかを本気で考えていこうと意識が流れ、その意識を、ブランド実現という方向に揃えることができたのです」