立派な企業理念を提示しても、社員1人ひとりの心に届かないのはなぜだろうか。会社のビジョンを社内に浸透させ、社員の、会社への愛着を高めることにも成功した例を紹介する。
企業理念を行動指針に落とし込んで実現
会社のブランドとは何か。トップからその重要性を説かれることはあっても、個人の目線で深く考えたことがあるだろうか。ブランディングと言えば、商品やサービスのブランディング、つまり顧客に向けて行うアウター戦略として認識されることが多い。しかし、近年、それに加えて会社のブランドを社員に浸透させるインナーブランディングの重要性が高まっている。この背景には、「ブランドビジョンを描いても、具体的な行動に落とし込む仕組みがない」「結局は絵に描いた餅で終わってしまう」といった企業の本質的課題がある。
博報堂ブランドデザインチームによって開発された「BIOS」(Brand Input/Output System)は、そうした課題を解決すべく、全社員に対してブランドビジョンの浸透・共有化を図り、ブランドに基づいた主体的な社員の意識・行動の改革を導くプログラムである。「企業理念」(企業の社会的存在意義)、「価値」(顧客にとっての価値)、「行動指針」(その企業のもとに集う社員に期待される、働くうえでの価値観)をブランドと定義し、以下の4つのステップを踏んで社内共有化・浸透を図る。
(1)社内にブランドリーダーを養成し、彼らを軸に、全社員にブランドの価値やその重要性を啓蒙するブランドスクールを展開する。
(2)ブランドスクールを通じて現状課題の抽出や行動指針の策定を行い、全体の活動指針を作成する。
(3)その指針に沿って、具体的なアクションプランを実施していく。
(4)実施したブランド活動内容のレビューや効果測定を行い、改善策を練る。
BIOSの特徴は、ワンウェーメディアやライン上の告知による一方的な伝達スタイルではなく、社員1人ひとりが「参加」「議論」するワークショップを部門で展開する点にある。
なかでも特筆すべき点は、ファシリテーションスキルの活用である。現場から選出されたブランドリーダーをブランド推進の中心に据え、部門別にワークショップ型のブランドスクールを取り仕切るファシリテーターとして育成する。ファシリテーションの技術を活用しながらメンバー1人ひとりの存在意義を確認しつつ、問題の特定から解決に至るまで、対話を繰り返しながら、他人事ではなく、自分に深い関わりのある課題として意識に浸み込ませていく。
「どんなに優れたプログラムであっても、他人から押し付けられては拒絶反応が起こるものです。ブランドリーダーの人選および育成が、このプロジェクトの成否を左右すると言っても過言ではないでしょう」