愛社精神は不満を吐き出すことから始まった
会社に対する愛着こそ、インナーブランディングの根底にあるべき精神である。会社も人間も同じだ。愛情があるから、欠点を直してほしくて、嫌われるリスクを承知であえて指摘する。ファミリーマートの場合、スクールで培ったファシリテーションの技術で、ブランドリーダーが社員の本音を引き出し、問題の本質を洗い出し、それを会社が認めたことで、信頼関係ができ、意識が自然と共有された。そのうえで、「気軽に心の豊かさ」を行動に移すため小規模の部門会を全国で開いた。それをプロジェクトに持ち寄って、各部門のブランドリーダーが発表するという手法は功を奏した。
これらのブランドスクールを経て、ファミリーマートのブランドをイメージする色、音、イメージを、「気軽に心の豊かさ」という言葉から想定される世界観をもとに、ムードボードで、全員で共有化した。ムードボードとは、メンバーの討議の中の言葉を、1人のデザイナーがビジュアルに落とし込んだものである。さらに、それまでは、コマーシャルを作る部隊が考えていたコマーシャルの核を、ブランドに基づき、プロジェクトのメンバーで決めていった。
「ブランドステートメント」としては、5つのファミマシップ「お客様の期待を超えよう」「仲間を信じ、ともに成長しよう」「豊かな感性を磨こう」「挑戦を楽しもう」「世の中に向かって正直でいよう」を定め、これに沿った行動指針を策定した。
それまで、ファミリーマートでは、現場と中央本部にいる人間がコミュニケーションをとる機会はほとんどなく、精神的な乖離があったという。たとえば、現場の最前線にいる人間が、経理財務の人と会って話をすることなど、まずありえなかった。
それが、ファミリーマートらしさをつくっていくにはどうしたらいいかという同じ課題で、60名が討議をすることで、経理部門にも、稼働率のことを言っているだけではなく、こんな熱いことを考えている人もいるんだと営業部門が見直し、部署に帰ってメンバーに「意外と経理部門でもこんなふうに考えているんだよ」と伝えることで、草の根的に誤解が解けていき、互いを認め合うという効果もあったと岩崎氏は言う。
コーポレートブランドからブランドをイメージしやすいBtoC企業のファミリーマートとは異なり、日立システムアンドサービスは、システムインテグレーションを事業とするBtoB企業であり、社外からは、ややドライな企業イメージを連想されることが多いと執行役の石井清氏は言う。
「しかし、私たちは、生き生きとした人材こそ会社の唯一無二の財産だと、まず社内にアナウンスしたかった。それで、“人財ブランド「S~」”をつくりました。全社員の名刺に、Smile、Sharplyといった「S」から始まる人財ブランドを印刷します。この単語が、各社員のテーマとなります。名刺に記述することで、自分からブランドに即して日々の業務を遂行していくと同時に、社外にもアピールするのが狙いです」