ゴミ屋敷から意識不明の状態で発見され…

Fさんは80代の女性で、20年ほど前に夫を亡くしてからは神経難病の娘とふたり暮らしをしていたようです。ある日、救急車で高齢の女性が意識障害で運ばれてきました。

この女性がFさんでしたが、近所の女性が「この2カ月ほど、Fさんの姿を見かけなくなった」と地域包括支援センターに連絡し、職員が訪問したところ、ゴミ屋敷の中に意識不明のFさんが倒れていたので救急車を呼んだのです。Fさんは悪臭を放つ汚れた毛布にくるまれていました。

写真=iStock.com/gyro
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私が大声でFさんの名前を呼び、顔を軽く叩いたところ、かろうじて目をあけました。くるんでいた毛布を開くと2匹のゴキブリが飛び出してきましたが、そんなことを気にしている暇もなく、Fさんを見ると肌はカサカサで明らかに脱水症でした。

少量の酸素を吸入してもらいながら点滴を開始すると30分後には話せるようになりましたが、内容は聞き取れずほとんど意味不明でした。頭部CTでは海馬や大脳の広汎な萎縮がみられ、最近できたと思われる小さな脳梗塞もありました。その1時間後にもう1台の救急車が到着し、聞くと同じ家に住む年齢不詳の女性を搬送したとのことでした。

その女性は目は開いていましたが話すことはできず、手足は屈曲拘縮していて、明らかに長期間寝たきりの状態だったことがうかがえました。後に警察が近隣の住民に聞き込みをしましたが、その女性のことは誰も知りませんでした。

住民票からその女性が50代であることがわかり、遺伝子検査などから脊髄小脳変性症という難病であることも判明しました。その女性は長年、いわゆる「開かずの間」にいたことになります。

一つの家族に複数の問題が絡んでいるケースが増えている

Fさんに関しては元々軽度の認知症があったところに脳梗塞が加わり、生活が難しくなったと考えられました。ふたりとも脱水症と低栄養があり、入院治療で改善したところで特別養護老人ホームと神経難病療養施設に別々に入所することになりました。

80–50問題の対象となる家族は経済的困窮、社会的孤立(家族以外の親戚などとの交流がない)、整頓・衛生などの住環境問題、そして精神疾患や障害を抱えており、このように一つの家族に複数の問題が絡んでいるケースは年々増えています。高齢化率が上がり、親と同居する非就業者が増えているからです。

特にコロナ禍で地域での見守りが難しくなり、支援も届きにくく遅れがちになっている状況では、問題を抱えた家族の生活状況はさらに悪化していきます。オンラインを活用して多職種間で頻繁に互いの顔が見える関係を築き、役割分担をすることができれば、スムーズな支援へつながるのではないかと思われます。

ポストコロナではこれまで以上に、幅広く多様な連携をもつネットワークの構築が必要となるはずです。80–50問題の「発見、介入、見守り」は単一の機関では難しく、わずかな可能性でもとらえてアプローチするには多くの機関の専門性が必要となってきます。そこで、多職種で形成されたチームによる支援の必要性が生じるのです。

定期的な医療機関や事業所間での情報交換は、認知症対策としての地域連携には欠かせません。そこではいわゆる困難事例について話し合われることがほとんどで、それにはいくつかのパターンがあります。