親と同居する非就業者は10年間で20万人以上増加している

認知症の発症率は80歳代の前半であれば男性17%、女性24%で80代後半になると男性35%、女性44%まで増え、これがコロナ禍によりさらに増えると見込まれています。一方、40代・50代の未婚者で親と同居する非就業者は2005年時点で52万人でしたが2015年には77万人以上に増加しています。つまり80世代の認知症発症により、日常生活の維持が難しくなるほどの影響を受ける50世代が増えてきたわけです。

そこにコロナ禍の悪影響がさらに加わることになります。80代の認知症がさらに増え、50代もコロナ禍の不況で非就職者がさらに増えていくわけです。80–50の家庭にとってはますます厳しい状況であると言えるでしょう。

世界的な流行と経済的影響
写真=iStock.com/Ca-ssis
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Eさんは80代の女性で、50代の統合失調症の息子と同居しています。夫が15年前に亡くなってからは自分の畑で農作業をし、農協に野菜を売りに運んでいました。ときどきは息子も手伝っていたようです。ところが腰痛で農作業ができなくなり、整形外科にバスで通院していましたが、コロナ禍で通院が怖くなりやめてしまいました。腰痛も改善しないので、自宅にいてボーッとテレビを見たり、寝たりしている時間が長くなっていきました。

これまで続けてきた農作業もできなくなったため、先祖代々で大事に引き継いできた畑も荒れてしまいました。息子はコンビニなどに出かけることはありましたが、それ以外ほとんど外出しなかったようです。

認知症が進み、息子からも暴力を受けていた80代の女性

母親は近所に住む女性からの「最近見かけない。畑も雑草が生えている」との連絡で訪問した地域包括支援センターの職員に連れられ、当センターを受診しました。

当センターの診察室に入ってきたときにはボーッとしたうつろな表情で、髪が乱れて衣服は汚れ、少しの尿臭もありました。明らかな記憶障害があり、長谷川式スケールは13点で中等度の認知症相当の認知機能低下でした。頭部CTでは海馬の萎縮と大脳の広汎な萎縮が見られ、アルツハイマー病と考えられました。

生活障害もすでに中等度で、この1カ月は入浴もしていなかったようです。洗濯もほとんどせず、家の中はごみが散乱している状況で、金銭管理は息子がやっていたようでした。

また、体には暴力を受けた痕が残っていましたが、本人は暴力行為については何も覚えていませんでした。しかし息子の怒鳴り声と母親の悲鳴が聞こえたという近隣の方からの情報もありましたので、地域包括支援センターから息子が通っていた精神科医にお願いして入院させていただき、母親はショートステイを利用して自宅から避難させました。

息子の主治医によると、同じことを何度も繰り返し聞くのでイライラしていたとのことでした。認知症の親の症状が子どもの精神的な安定を乱した結果の虐待は、十分あり得ることです。

このケースではかろうじて息子が精神科医につながっていたので、比較的対応がスムーズだったのですが、通院も拒否している場合、このような事態への介入はさらに困難になります。このように50代ぐらいの精神疾患がある患者で、親の収入をあてにして同居しているケースは虐待の温床であるため、医療・福祉・介護・行政の連携による生活全般にわたっての見守りや支援が必要となってくるでしょう。