岸田政権が一気に「原子力復権」に動く可能性は低い
たしかに、これら4基は、運転再開に関する地元自治体の了解も取り付けている。にもかかわらず、ここが肝心な点であるが、4基のいずれについても、再稼働のために必要な安全対策工事やテロ対策施設工事が、2023年2月時点では完了しないのである。電力各社によると、女川2号機は2024年2月、高浜1・2号機は2023年6~7月に再稼働する予定で、島根2号機は具体的な時期が決まっていない。
「当面する電力需給逼迫を解消するために原発再稼働を」という意見は、残念ながら、「空理空論」の域を出ないと言わざるを得ない。
2022年7月の参議院議員選挙で、政府与党は勝利をおさめた。この点と、今のところこれから3年間国政選挙が予定されていない点とを踏まえて、岸田文雄政権が一挙に原子力「復権」に動くという見方が一部にある。しかし、現実はそうならないだろう。
岸田首相の「原発稼働」表明が意味すること
岸田首相は、参議院議員選挙から4日経った2022年7月14日に記者会見の場で、2023年1〜2月の電力危機を回避するため、最大9基の原発を動かす方針を表明した。
しかし、このことは原発の「復権」をまったく意味しない。
なぜなら、これら9基はすでに再稼働を果たしたものばかりであり、再稼働済みの炉が一時的な点検等を終えてこれから動くことについては、とっくに織り込み済みであったからだ(再稼働を果たした10基のうち、九州電力・玄海4号機は、どうやら2023年1〜2月には運転できないようだ)。
焦点は、再稼働済みの炉が何基動くかではなく、原子力規制委員会の許可を得ながら再稼働を果たしていない炉が新たに何基動くかにあった。むしろ、この岸田発言は、新たに再稼働する原子炉が皆無であることを確認したものなのである。
岸田政権は、お題目として「原発の最大限活用」や「新型炉の開発」を唱えても、肝心の「原発リプレース(建て替え)・新増設」に踏み込むことはあるまい。いくら大きな選挙がしばらくないからと言って、選挙に勝つためには原子力に触れないこと、問題を先延ばしすることが一番だと考える政治家の心理は変わらないからである。