フィンランド大使はエコノミークラスで移動

様々な課題はあるが、基本的にフィンランド人の生活への満足度は非常に高い。2018年から5年連続で、幸福な国ランキングでは1位だったし、EUの統計局であるユーロスタット(Eurostat)の調査でも生活満足度は欧州トップクラスとなっている。若い頃は国外に出て刺激的な生活をしたいと言っている人でも、結局は結婚して子どもを持つとフィンランドに戻ってくるケースが多いように感じる。

堀内都喜子『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)

その大きな理由として、機会の平等と公平性がある。フィンランドでは大統領が飛行機で移動する時も、ビジネスクラスに席がなければエコノミークラスで移動するし、大使たちは基本的にエコノミークラスだ。いくら裕福な人でも、出産や手術は一般の病院で受け、学校も大学も身近な公立に行く。

教育も福祉も住む地域や経済的な背景に関係なく、一定水準のサービスが受けられる。まさにゆりかごから墓場まで、最終的には国が何とかしてくれるという信頼があり、国民たちは税金を納めてサービスとアクセスの保障に貢献する。

その分、その平等や公平性がゆらぐ出来事に対しては非常に敏感に反応する。

プログラミングがまだ義務教育に組み込まれていなかった頃、子どもや大人向けに様々なプログラミング教室が開催されていたが、その多くが企業の支援を受けて無料だった。皆にとって必要な知識だからだ。有料だと、スキルを得られるかどうかで格差が生まれてしまう。

コロナ禍のマスクについても、義務教育の子どもたちには必要に応じてマスクを無料で配布することになった。全員が必要なものならば格差があってはならない、と。

教育に限らず、保育、介護、福祉などあらゆる分野で、全ての人たちにアクセスの保障と公平性が保たれるべきだとの考えは、フィンランド人の価値観の根幹となっている。フィンランドは相対的に格差がきわめて小さい国の一つである。それでもフィンランド人に聞けば「格差が広がっていることが心配」とか「まだまだ不平等だ」というネガティブな答えが返ってくる。現状に満足せず、状況を厳しく捉えている。

そして誰もが尊厳のある生活水準を保てることを必要な社会保障と捉え、低所得層への支援に対しては寛大だ。彼らを努力が足りない人だと見るのではなく、そのような状況に陥っているのはむしろ社会の問題だと捉える。

100年後のフィンランドはどうなっているか

フィンランドは50年、100年後はどうなっているのだろう。その頃にはサステナブルな社会を築けているだろうか。私はきっと、福祉国家としての基本的な価値観を維持したまま成長を続けていると思う。人が国の一番の資源だと考えて投資を惜しまず、新しい考え方やイノベーションを柔軟に取り入れ続け、一人ひとりの市民がそれを支えているだろうから。

個々の制度や特定の個人が立派なのではなく、その根底にある「平等」「公平性」といった価値観や思想、そしてそれを支える人々の力こそが、フィンランドが誇る最大の強みであり、そして一番の宝物なのだ。

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