病院はそもそも一般外来診療を行う施設ではない
本来、病院と診療所(クリニック、医院)では担っている役割が違います。どう区分されているか、ご存じですか?
医療法では、入院加療用の病床が20床以上ある施設は病院、19床以下の施設および入院施設を持たない施設は診療所、と定義されています。
病院については、専門的に取り組んでいる医療の内容に応じて、医師をはじめとするスタッフの人数や設備などの基準が、こと細かく定められています。病院とは、「入院を必要とする医療を施す」ための施設であって、そもそも一般外来診療を一義的に行うための施設ではないのです。
しかし日本では、病院と診療所の役割の違いが一般の人たちにきちんと認識されていないまま、フリーアクセス制が行われてきたというのが実状でした。
大病院には、高度医療のための設備が整えられ、専門知識とスキルを持った医師らがいます。そこに、専門的医療を必要としない軽微な症状の患者さんが集中することは非効率的です。端的にいえば「医療の無駄」――。本当に専門的医療が必要な患者さんに適切な対応ができなくなってしまうこともあります。
そこで、医療機関の機能の明確化を図るために、大病院にかかるためには「かかりつけ医」等の紹介状が要る、紹介状がない場合は診療費のほかに「選定療養費」として負担金が課される、という方法が採られるようになりました。紹介状なしの場合の選定療養費は、病院ごとに金額を決めていいことになっていますが、初診でだいたい5000円~8000円、高いところで1万2000円くらいです。
負担金の値上げは「東大病院で診てもらいたい」の歯止めになるか
これによって、風邪を引いただけで気安く大病院を受診するような状況は減少したといわれていますが、人々に医療機関の機能分化を正しく認識してもらう目的としては、あまり役立っていないのではないか、と私は見ています。
負担金を思いきり高くする、例えばいまの10倍、10万円くらいになったら抑制効果はもっと違ってくるかもしれません。ただ、それでも「大病院で納得いく医療を受けたい」と希望する人たちの歯止めにはならないと考えられます。
「うちのような田舎には、いい医者がいない。東京の大学病院の先生のところできちんと診てもらいたい」という思いで地方からわざわざやってくる患者さんにとって、出費があと10万円増えたとしても、「納得のいく、よい医療を受けたい」という気持ちを変える材料にはならないと思えるからです。
人は、門が開かれていたら通りたくなるものです。制度として門戸が開かれていれば、そこを通ろうとする人がいて当たり前。だからこそ、医療の仕組み自体を工夫することが大事なのです。