世襲議員が圧倒的に多い理由
政治指向分析では、自民党の「イエ中心主義」が再生産されていく過程を戦後の自民党の保守再生の道筋と重ねて明らかにしていく。女性をイエに従属する存在としての認識の再生産は、即ち戦前の伝統的価値観の再評価に伴う女性認識の再生産であり、自民党が保守政党として再生するための政治的かつ戦略的な選択の結果である。
またキャリアパス分析の過程では、他政党に比べて群を抜いて多い世襲議員(男女共に)が「イエ中心主義」の候補者選定基準を裏付けている。本書では、いわゆる世襲議員について、親から子への直系の地盤・後援会の継承だけではなく、広く夫の弔い候補や、親族に政治家(地方議員も含む)が存在している「環境世襲」も世襲とし、「血縁継承」という表現にすべてを包括している。なぜ「血縁継承」としたかについては第5章「政治指向の象徴としての血縁継承」において詳述している。
名士のイエ、資産家のイエにつながることが重視される
興味深いのは、「イエ中心主義」の表出は血縁継承議員に限らないことである。例えば地元の名士のイエに連なる、地元の資産家のイエに連なるなど、イエへの評価が候補者選定に大きく関わることもキャリアパス分析から得られた重要な知見である。つまり、「イエ中心主義」の政治指向は、女性を常にイエに従属する存在として認識形成をし、ゆえに女性が候補者として選定される機会を減退させるのみならず、男性候補にも「イエ中心」の評価の偏向を生じさせているが、この偏向はより女性候補に色濃く反映されているのである。
いささか乱暴な表現をお許し願えれば、「志しがあっても、自己資金も知名度も、一定の支援者もいない、ましてや自民党にコネクションもない普通の女性」は自民党の候補者になり難いのが現実である。
「イエ中心主義」の政治指向に基づく候補者選定は、女性が選挙においてその入り口に立つことすらが容易ではない状況を生み出す。「日本型政治文化」を主導的に形成してきた自民党の「イエ中心主義」の政治指向が、女性の過少代表を招く一因になっていることは本書をお読みいただければ、明解にお分かりいただけよう。