施設の叔父を連れ出し「テレビをもらおうと…」
筆者はまず、叔父夫婦の今後のため、施設のケアマネージャーに連絡を取り、次の入居先や後見人についての相談を持ち掛けた。さらに、筆者が九州に行く日に合わせ、親族と話し合うための部屋を貸してもらう約束を取り付けた。
物事は順調に進み始めたと思えた。しかし、筆者が話し合いのための準備をしている間も親族が妙な動きをしていることを知った。きっかけは施設からのこんな報告だった。
「叔父を車で連れ出したいと、甥を名乗る人がやってきました」
もちろん、施設側は「義母の許可がないと許可できない」と断っている。そもそも、外出理由もあやふやだったらしい。いったい何をしようと考えていたのか。義母にそれとなく探ってもらうと、
「家の鍵を開けさせて、テレビとか使えるものがあればもらうつもりだったみたい……」とため息まじりの返事がきた。
筆者が親族たちに話し合いの日時を連絡した時も、親族からはいろいろ勘ぐる声があり、中には「話し合いとかいっても、どうせあんたのところが財産をもらうんだろ」と口に出す者もいた。
親族たちはいずれも高齢で噂に流されやすく、感情的な面が多々あったとはいえ、筆者は少し先行きに不安を感じた。
「世話してやったんやから礼くらいしてもらわんと」
話し合いの日。叔父が入所している施設に筆者と妻、義母。そして叔父きょうだいの長男の娘、久子。同じく長女の娘、文子。次男の息子、信夫がそろった(いずれも仮名)。親族は全員同じくらいの年齢(70代半ば)だ。
ここに叔父も同席してもらい、筆者が司会進行役として話を始めた。
「今日、皆さんに集まってもらったのは、ここにいる叔父さんの今後のことについてです」
その言葉が終わらないうちに久子が大きな声をあげた。
「そんなこと言って、最初からこの人(義母)がみんなもらうってことなんじゃろが。こん人(叔父)がそう言ってたぞ」
のっけから暴走だった。
「違います。そういうことを含め、ちゃんと話をしてほしくて集まってもらったのです」
筆者の言葉など久子にはどうでもいいことらしい。畳み掛けてくる。
「アタシはアンタ(叔父)が大変って思ったから、わざわざ料理こしらえて持って行ってやったろ。なのに何ひとつ礼もせんかったろうが」
どうやら、久子も少しは協力しようと思った時期があったようだった。ただ、財産の件はまったくのいいがかりだ。そこをクリアにしなければと、今度は筆者が久子の話に割って入った。
「その財産うんぬんの話は違いますよ。義母は単に通帳を預かっているだけです……」
いくら丁寧に話をしても、久子はいかに叔父たちのためにお金と手間をかけ料理を作ったかや、それに対するお礼がなかったと繰り返すだけだった。
「なー文子ちゃん。こっちも世話してやったんだから、礼くらいしてもらわんとな。それなのに、ひとりだけに財産をやるなんて言って……」
同意を求められた文子も相槌を打つ。その後もふたりは延々と言いたい放題。まるで話し合いにならなかった。なんとか話を聞いてもらおうと優しくなだめていた筆者のことなど、まるで意に介さない。