白井審判員は本当に「悪いこと」をしたのか

筆者はアマチュア野球で20年以上の審判経験を持ち、日本国内の独立リーグでも通算7シーズン審判を務めた。日米のプロ審判との交流も多く、書籍『わかりやすい野球のルール』(成美堂出版)の監修を約20年務めている。野球の規則と歴史には詳しいほうだと思う。

そんな経験を踏まえて言うと、白井審判員の詰め寄り事件が大きな問題になったのは、率直に言えば意外だった。なぜなら、選手が判定に不服の態度を表したとき、それを審判が注意したり、規則に則って警告を与えたり退場処分を科したりすることは、野球の試合では日常的に起こりうることだからだ。

同様のケースで球審が投手に向かっていくのもMLBでは何度も事例があるし、私自身も経験がある。相手が投手だから目立ったかもしれないが(マウンドまで歩くと目立つ)、相手が打者や走者ならもっと普通のことだ。

問題になった4月24日の試合は、筆者もすぐに映像で確認した。「事件」が起こるまでの佐々木投手の態度は、投球判定に対する不満の様子がありありと見て取れた。際どい投球をボールと判定されると、薄笑いを浮かべたり首を振ったり、プレートを外して後ろを向いたりしている。これらは典型的な不満の態度だ。ここにハッキリと不満の言葉も付け加わると明確に注意の対象となるが、このときの佐々木投手は言葉を発してはいなかった。

問題の「詰め寄り」はタイミングが少し早かった

ルール通りの警告や退場はともかく、注意するというのはなかなか難しい。野球のグラウンドというのは「オラァ!」とか「なんじゃワレ!」といった言葉が日常的に飛び交う野蛮な場所である。

選手に負けないように気を張っている審判としても上品な言葉遣いにはならないし、審判側からすれば「けんかを売られた」と感じているので、「じゃあけんかを買いましょうか」という態度になるのも致し方ないところだ。選手からのヤジや攻撃的な態度に負けないため、ヤジが聞こえた方向をにらみつける「フラッシング」というテクニックも審判学校で教わる。野蛮な世界で気を張るのもなかなか大変なのだ。

ただ、筆者の感覚では問題の「詰め寄り」は少しタイミングが早かったように思う。このくらいの態度なら、もう少し様子を見るのが普通だが、この試合は立ち上がりから審判にストレスのかかる展開だったことも影響しているかもしれない。

完全試合達成で注目を集めた佐々木投手の登板もさることながら、1回表にリクエストがいきなり二度もあり、一度は判定が覆っている。また、同じイニングに三塁線での微妙なフェア判定もあって、審判団全体にプレッシャーがかかったことは想像できる。そのプレッシャーが判断を狂わせた可能性は否定できない。