レジェンド審判が言った「私は一度も間違ったことがない」

審判も人の子、実際には間違った判定を下すこともある。しかし、ベースボールが始まった頃、それを証明する手段は何もなかった。審判は見た通りをジャッジした、それに対して違う違わないと言っても水掛け論にしかならない。

審判としても、いちいち「間違ってました、スミマセン」などと言うわけにはいかなかったし、間違っていたと思っていたら本当は正しかったり、正しいと思っていたら実は間違っていたり、野球の審判はなかなか難しいのである。それで、審判というのは判定が間違っていたとは認めないし、謝ったりもしないという文化が生まれることになった。

メジャーリーグ初期の伝説的審判であるビル・クレム氏は「私は一度も間違ったことがない」と言ったとされるが、そのくらいの気概がなければいけないということだろう。

「デモンストレーション」はなぜ禁じられているのか

規則で審判員に強い権限を与えていても、そのジャッジに不満を持てば監督や選手は騒ぎ立てる。観客だって騒ぎ立てる。どのようにしてグラウンド内の秩序を保つかということは、MLB発足と同時にプロ審判員が誕生して以来の大きな課題だった。そこで、審判員に対する侮辱行為は厳しく取り締まることになった。

最近は日本でも知られるようになってきたが、アメリカの野球では昔から「デモンストレーション」を禁じる文化がある。デモンストレーションとは、周囲から見て分かるような、あからさまな身振り手振りを入れた抗議のことだ。

たとえば監督が抗議をする際に、「見てみろ、こんなお客さんの前で間違えて恥ずかしくないのか」と言わんばかりに両手を広げたり、「ちゃんと見ているのか」という意味で両目を指さしたりすることは、観客を扇動することにつながるので禁じられている。デモンストレーションをすれば警告が発せられ、それでもやめなければ退場になる。判定に不満でバットやヘルメットを叩きつけたり、ベースを引っこ抜いて放り投げたり、ホームベースに砂をかけたりする行為は一発退場だ。

ここまでひどくなくても、ボールをコールされた捕手が球審を振り返って質問したり、投手が肩をすくめて両手を広げたりするのは審判から嫌われる。こんな行為を見れば観客が選手と審判とどちらの味方をするかは火を見るより明らかだからだ。これを野放しにすれば審判はナメられてゲームコントロールを失うと、審判学校やマイナーリーグの現場で教官から教わる。だからアメリカの審判はこうしたデモンストレーションも決して見逃さない。いきなり退場にしないまでも、キッパリと注意をする。