長期化すればするほど政権の足元が揺らぐ
むしろ長期化すると困るのは、ロシア側だ。まず戦力がもたない。すでにロシア軍はウクライナ国境付近に終結させた部隊のほぼすべてをウクライナ国内に投入したものの、いまだにキーウやハリコフなどの都市部を占拠できないでいる。そこで、外国人部隊を追加投入しようとシリアで傭兵を募集しているくらい、ギリギリの状態なのだ。
それから、西側諸国の経済制裁によって、ロシア国内の経済状況はかなり厳しくなってきている。国際決済システムであるSWIFTからの締め出し、200社を超える西側企業の撤退や縮小、ビザやマスターなどのカード決済業務停止などで、市民生活はすでにかなり混乱しているようだ。報道によれば、小麦、砂糖、塩などを買い急ぐ動きが目立ち、一部のスーパーは1人が買える量を制限し始めているということだ。
ロシアは穀物の自給率が高く、すぐに食糧不足に陥る可能性は低いものの、パニックに乗じて転売で利益を得ようとする人が増えてくることも考えられるので、それを見越してみな自衛に走っている。
また、「インフレが加速する前にいち早くルーブルをモノに替えておきたい」という消費者心理も働いているのだろう。それにともなってアメリカの格付け会社ムーディーズは3月6日、ロシア国債の格付けを2段階引き下げて、非常に投機的にあたるCにすると発表した。ニューヨークとロンドンに本拠を置く格付け会社フィッチ・レーティングスも8日、ロシア国債の格付けを投機的水準のBからデフォルト寸前のCに引き下げている。
ロシア政府は自国民に向けて厳しい情報統制を敷いているため、国営テレビしか見ないような人たちはまだ「プーチン大統領はウクライナでロシア人をいじめているゼレンスキー大統領に正義の鉄槌を下している」と信じているが、さすがに生活が追い詰められてくると、プーチン氏に対する支持も揺らぎかねない。
有力者が次々とプーチン氏と距離を置いている
また、プーチン氏を巨額の富で支えているとされるオリガルヒ(新興財閥)のひとりであるロマン・アブラモヴィッチ氏は、自身がオーナーを務めるサッカーのイングランド・プレミアリーグ「チェルシー」の経営権を売却し、手にした純益をすべて戦争の被害者に寄付することを表明した。
また、やはりオリガルヒの一員で、1992年にアメリカに亡命したアレックス・コナニキン氏はメディアの取材に対し、「プーチン氏のウクライナ侵攻は戦争犯罪」と断言し、さらに「生死を問わずプーチン大統領を捕まえた人に100万ドルの懸賞金を支払う」とSNSで呼びかけている。
このように、ロシアでプーチンに近かった人たちも、徐々に距離を置き始めている。