辞めるぼくに、先輩たちがくれた3つの問い

辞めることが決まったあと、人事部全体でオープンになる前に、ぼくはお世話になった先輩たちに自分の感じている問題意識をぶつけにいきました。

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いま若手を中心に感じている閉塞感とは、「1人の人間として重視されている感覚の薄さ」であり、また、その状態を「1人ではなにも変えられないという無力感」だということ。それを変えないかぎり社員が幸せに働ける会社はつくれない、ということ。だから、もっと1人ひとりの従業員が「1人の人間として重視されている」と感じられるしくみに変えていかないとダメだ、ということ。

先輩たちは、ぼくのつたない説明を真剣に、否定することなく聞いてくれました。そして、「自分たちも社員が生き生きと幸せに働ける会社をつくっていきたいと思っている」と仰ってくれました。

そこで同時に先輩たちは、ぼくにいくつかの問いを投げかけてくれました。それぞれバラバラにもらった問いかけでしたが、共通している部分をまとめてみると、それらは次の3つの質問に集約されました。

・「なぜ会社の平等は重んじられてきたと思うか?」
・「なぜ会社の成長が続いてきたのか知っているか?」
・「なぜ会社の変革はむずかしいのか理解できているか?」

どれも、返答に窮するものでした。

恥ずかしながら、当時のぼくには人事の先輩たちの質問に答えられるだけの知識もなければ経験もありませんでした。さらには、そんな回りくどい質問をするくらいなら早く答えを教えてくれればいいのに、とさえ思っていました。

ぼくは、先輩たちにこう言いました。

「転職したあとも、どうすれば日本の会社で働く人たちが閉塞感を感じないですむのか、1人の人間として重視されている感覚を持って幸せに働けるのか考え続けます。そして、いつか答えが出たら、会社の外からそれをみなさんに届けます」

先輩たちはうれしそうに微笑みながら、「楽しみにしているよ」と言ってくれました。

嫌いになって辞めるなら、もっと話はかんたんだった

部内でぼくの退職がオープンになったあとも、人事部のみなさんはこれまでどおり、いや、それ以上に温かく接してくれました。

現場でお世話になった工長さん・組長さんたちに挨拶にいくと、「馬鹿野郎!」と羽交い締めにされながらも、「つらかったらいつでも戻ってこい。うちの組で面倒見てやる」と言ってくださりました。

本当に、涙が出るくらいうれしかったことを覚えています。

12月の出社最終日前日。その日は100人近くがあつまる人事部の大忘年会でした。そして、幹事はぼくでした。もう退職することが決まっていたので、できるだけ裏方に徹する予定でした。しかし、最後の異動者挨拶の段になって突然、上司が「髙木、壇上に上がれ」と呼び出してくれました。

人事部全員の前で、上司からはなむけの言葉をもらいました。最後の最後まで、本当に温かくてすてきな会社だと思いました。

だからこそ、つらかったのです。

嫌いになって辞めるのなら話はかんたんです。むしろ、合わない組織なら辞めた方が両者にとって幸せです。しかし、そうではありません。

ぼくはいまでもトヨタの掲げる理想や大切にしていることに共感しています。また、当時一緒に働いていた、そしていまもトヨタで働かれている人たちのことを尊敬もしています。しかし、日本の大企業の閉塞感を変えるためには、一度トヨタの外に出る必要がある。少なくとも、当時のぼくはそんなふうに考えたのです。