ポケモン世代の学生が目をつけた「進化前後」の名前の変化

ある大学で集中講義を受け持った時のこと。時は2016年。PokémonGOのリリースもあり、世の中はポケモン一色であった。1日目の授業は、上記の理由でずっと音象徴。「ガンダム」って「カンタム」より大きいイメージじゃない? 「ゴジラ」って「コシラ」にすると、急に弱くならない? 濁音って、なんか「大きくて強い」イメージがしない? といった感じである。

すると、その授業に参加していた学生が2日目にスライドを用意してきた。彼曰く、「ポケモンは強くなると進化して名前が変わります。そして、進化とともに『名前に含まれる濁音の数』が増加する傾向にありそうです。例えば、『イワーク』は『ハガネール』に、『ゴースト』は『ゲンガー』に進化します」。

この発表には「素晴らしい」のひと言である。観察としても面白いが、何より、ポケモンの世界には800体近い個体がいる(※)。であれば、統計的な分析も可能ではないか。

※2016年当時は第6世代までの個体の名前を分析した。本書執筆時点で、LEGENDアルセウスまでに登場したポケモンは905体。

「進化レベル」と「名前に含まれる濁音の数」は正の相関を示した

すると、次の日には別の学生がポケモンの属性データをネット上で見つけ出し、それをExcelに落とし込み、しかも、名前に含まれる音をすべて数え上げてくれた。もともと、その集中講義中に統計分析の基本は教えるつもりだったので、「せっかくなら、ポケモンのデータを使って、統計分析を学ぼう!」という流れになるのは自然なことであった。

そして、実際に日本語のポケモンの名前を統計的に分析すると、「進化レベル」と「名前に含まれる濁音の数」は正の相関を示した(図表1)。上記の「ガンダム」「カンタム」や「ゴジラ」「コシラ」のような例からもわかるように、日本語では「濁音=大きい」という連想が成り立つ。

それぞれの進化レベルにおいて、名前に含まれる濁音数の平均。ポケモンは2回まで進化する。「-1」は後から登場した「ベイビィポケモン」。Kawahara et al. (2018)より編集して転載。/『フリースタイル言語学』(大和書房)より

確かに、この連想自体は、前々から知られていた。ポケモンは進化するとサイズが大きくなる傾向にあるから、この「濁音=大きい」という音象徴的な連想が、ポケモンの命名にも生かされていることが判明したということだ。しかもポケモン研究ならではの利点が浮かび上がってきた。そう、この「濁音=大きい」という連想を「統計的に」実証できたのである。