入室から2時間後…『バッチリ! バッチリ!』
張り込みを開始して、ようやく1時間が経過した。眠くて眠くて仕方がない。特に変化は起きず、同じ場所で待ち続けるだけだ。
もうすぐ入室から2時間というところで藤原さんが言った。
「ラブホってショートと休憩があるだろ? だから入室してから2時間と3時間のタイミングは特に注目しておいてな」
「はい。わかりました」
生返事をしてボケーっと出入り口を眺めていたら、イヤホンから所長の大声が聞こえてきた。
『キタキタキタ。バッチリ! バッチリ!』
どうやら、彼がいた正面入り口から堂々と出てきたらしい。想像していたよりもあっけないラストだった。さんざん眠気を我慢していたのだから、せっかくなら俺が見てたとこから出てきてほしかった。なんか損した気分だ。
「おし、張り込みは終了。もう一回尾行するから、最後まで気を抜くなよ」
「はい。わかりました」
駅から来た道をそのまま戻っていく二人。ホテルに入ったときと同じように全く警戒心はなく恋人つなぎでラブラブだ。というか警戒してても探偵が相手じゃ無駄だろうけど。
「たぶん300万くらいとられるよ。高給取りだから」
川崎駅の前で二人は別れて、女の方は別の方向に歩いて行った。
『タナカは女を追いかけて』
『はい。わかりました』
浮気相手を尾行するタナカさん。相手の家まで一応アタリを付けておいて、依頼主からこれ以上の依頼があったときに調べるようだ。どこまでも逃げ場はないんだな。
対象者の男はJR京浜東北線に乗って帰宅の路に着いた。調査はここまでで終了だ。
「野村君これで一通りは終わり。今日は研修みたいなもんだったけど、どうだった?」
「いやあ、疲れました。あの男性はどうなるんですかね?」
「まあ、間違いないく離婚だろうね。たぶん300万くらいとられるよ。彼は結構な高給取りだから」
うげえ、なんだか人の不幸で金をもらうって気分が悪いな。この仕事を続けるのは難しそうだ。適当な理由をつけて辞めることにしよう。